第5話〜勇者因子〜
「最初から勇者因子をコントロールできる奴はいねえよ、特に、ウィルクラスになると、余計にな。安心しな、妹には手は出さねえよ、坊主」
「...っな、俺は...一体、何を....」
「に、兄さん!!!」
クルルが慌てて駆け寄ってくる。
だが、俺はそんなことよりも、以前の、地下室でピエロと戦った時も、同じ感覚になっていた事を思い出していた。
今......俺は、何を考えていた...??
「どういうことですか!ガルドさん!!兄さんに、こんなっ!!!」
「おいおい、嬢ちゃん、そんな怖い目で睨まないでくれよ...さっきも説明しただろうが...いくら自慢の兄さんでも、まだ勇者因子はコントロールできたねえはずだってよ」
クルルにガルドと呼ばれた男は頭をポリポリとかきながら気まずそうにしている。
「嬢ちゃんには、そこらへん確かめるために説明して、一芝居打ってもらったんだがなぁ。まあ、そこの坊主も、あんま気にすんな、みんなそんなもんだからよ、ほら、とりあえずそこにでも座れや」
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ガルドの話によればこうだ
勇者は聖剣に選ばれ、触れた瞬間勇者因子というものを流し込まれる。
勇者因子は勇者に人知を超えた力を与えるが、副作用もある。それは、自分が悪だと判断したものに対する攻撃性を高めるというものだった。
「聖剣の力とはいえ、いきなり切り掛かって...すみませんでした、ガルドさん...」
気にするな、とガルドは前置くと
「まあ、坊主の聖剣ウィル、俺の聖剣ホープは最強の2振りと名高い聖剣だ。その分副作用も強えってわけだな。最初のうちは聖剣の力を封印し、因子にのまれないよう、てめえの力を底上げする。シェーラ嬢なんかは封印のプロだからな。シェーラ嬢任せるぞ。」
「ええ、もちろんです。任せてください」
そう得意げに言うとシェーラは封印の準備がある、と言って部屋を出て行ってしまった。
「......まあ、あれだな。今日から俺のことは、師匠とよべよ、坊主」
そう言うと、ガルドは壮年期の顔に似合わない、無邪気で少年のような笑みを浮かべていた。
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「.....でっ、師匠!!!なんなんだよここは!!!」
聖剣の力の封印はすんなりと済んだ。シェーラが封印の名手だと言うのは本当のようで封印を施す部屋に着いて少し呪文を唱えただけで封印は完成したようだ。
その後、ガルドに早速特訓だと連れて来られた洞穴....
ギチチチチチチチ!!!
キィキィキィキィ!!
「なんでこんな虫型の魔獣ばっかりなんですか!!」
そう、連れて来られたのは虫型の魔獣の巣だったのである。
「とりあえず基礎体力をつけないことにはよお。聖剣の力を封印したつっても加護は残ってる。虫の毒は効かねえはずだし、ダメージも受けねえはずだ。まずは、聖剣の使い方ってのを身をもって覚えろってことだな。」
そう笑うとガルドは心の底から楽しそうに笑顔を見せる。
「だからって、こんなところに突き落とすなんてっ!!!」
確かに、聖剣の影響か、虫の毒は聞かない、牙や爪を受けても、酸をかけられてもダメージを受けることはない.....ないのだが........精神的に来るものがある。虫に刺され、噛み付かれ、体液をかけられるのだ。気持ち悪い。
「く、くそーーーっ!!」
「頑張れよ、クロト。お前はセラの忘れ形見だ。せめて、死なない程度には鍛えてやらねえとな...」
巣穴を見下ろしながら、そう呟くガルドの声は虫と戯れるクロトには聞こえてはいなかった。
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