Currency ~通貨~
17.なぜか棒だよ、君のゴールド <1>
「……なんだ、この棒切れ? コインはどうした?」
「ないですよね……」
草むらをレンリッキと一緒に見回す。かなり広範囲を探したけど、落ちているのは指くらいの長さの銅の棒切れだけだった。
「はいっ! アタシ、分かりました!」
挙げている手をさらにビヨッビヨッと伸ばしてアピールするアンナリーナ。
「……期待はしてないけど、一応聞こうか」
「あのね、コインはスライムが昇天するときに持って行っちゃったから代わりに――」
「いつまでその説信じてるんだよ!」
聞くの3回目ですけど!
「レンリッキ、この棒、アイテムか?」
「いや、僕は見たことないですけど……ちょっと貸して下さい」
手にとって、押したり、振ったり、地面に刺したりしてみるが、何も起こらない。
「ううん、やっぱりアイテムじゃなさそうですね」
「シーギス、食べてみたら? 何か起こるかもよ?」
「じゃあお前が先に食え」
どう考えても材質は金属だよっ!
「イルグレット、どう思う?」
俺の質問に、さっぱり、という表情で首を振る。
「魔王の魔法が絡んでるんだろうなってことしか分からないわね。この棒自体が何なのかは、さっぱり検討がつかないけど」
「そうだよな。多分魔王の仕業なんだろうけど……」
そこに、もう1匹、双頭のワニのモンスターが現れた。
「珍しい! ツインダイルですね」
「うげっ、気持ち悪い。アタシが倒すわ」
手を前にかざし、心なしかいつもより憎しみを込めて呪文を唱える。
途端、疾風が土ごと傷つけるかのようにヒュパッと大地を走り、ツインダイルの体を真ん中で切り裂く。頭は1つずつに分かれ、いつものようにパンッと弾けた。
「さてと……」
ゴールドを落とすことを期待したものの、またもや銅でできた棒。どのモンスターにも異変が起こってるなんて、やっぱり魔法だ。
「はい、じゃあレン君、どう思う?」
「えっ、いや、イルさん、そんないきなり」
冒険が始まって結構経つのに全く治らない、レンリッキの突発的な対応苦手病。
「えっと、えっと……そうだ! モンスターが実は倒れてなくて、棒に変身しただけって可能性もありますね!」
「ないよ!」
魔王の話はどこにいったんだよ!
「シーギスはどう思う、この棒?」
「ううん……武具でもないし、道具でもない、と。で、ゴールドじゃなくてこの棒が……」
手に置いた棒をじっくり見てみる。すると、長いものと短いものに分けられることが分かった。
「2種類あるのか…………2種類?」
待てよ、いや、そんなことはあるか? …………ありうるな。
「レンリッキ、お前今、ウィングスライムの落とした棒持ってるよな?」
「ええ、持ってます」
手を開いて、鈍く輝く5本の棒を見せてくれる。
「アイツ、普通は何G落とすんだ?」
「14Gですね」
やっぱりか……。
「その棒、長いの1本に短いの4本だよな」
「ええ、そうで――」
さすがレンリッキ、気付いたらしい。
「シー君、多分私も分かったわ……そんなことってあるの……」
「何、シーギス、どういうこと?」
ポカンとしているアンナリーナに、俺の手を開いて見せる。
「これ、さっきのワニを倒したときの棒だ。長いのが3本、短いのが2本あるのが分かるだろ? レンリッキ、何Gだ?」
「ツインダイルは32Gです」
「長いのが10G、短いのが1Gコインだとすると……」
「これが新しいゴールドってこと……?」
目を丸くしている彼女に、ゆっくりと頷く。
「魔王、ゴールドそのものを変えたんだ」
下げるわけでも上げるわけでもない、新たな攻撃。
あまりにも予想外なその魔法を笑うかのように、風に揺れた棒切れがカツンカツンとぶつかって綺麗な音を響かせた。
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