16.悲鳴と混乱と、新たな異変と <2>
「シー君、アマック村のカジノも潰れたらしいわよ」
「まあ、うちのアイテムマスターが破算することがなくなったってことで、喜んでおこう……」
草原で耳打ちをしてきたイルグレットに耳打ちで返す。本人にカジノのことを思い出されたら危険だからな……。
宿屋も武具屋も道具屋も酒場も、全ての価格が元に戻った。長い時間かけてあれだけ金額が膨れ上がっていたのに、弾けるのはあっという間。
当然、村々の混乱は凄まじいものだったし、ゴールドを借りてまで商売してたような人は破算したらしい。そして下がった反動で、皆ゴールドを使わなくなっている。
村の雰囲気は暗くなり、活気は鳴りを潜めた。
「さて、レンリッキ。俺達も堅実に行こう。次の村は?」
「はい、えっと……ここから結構近いですね。2~3日北に歩くと、ハクエン村があります。そこまで行くと、魔王の住処にも大分近づきますね」
折り畳んでいた地図を広げて、レンリッキが道を確認する。リュックに戻そうとしたとき、声霊石がボウッと光るのがポケット越しに見えた。
「ドラちゃんだ!」
アンナリーナが嬉しそうに石を持つ。
「どうした、ドラフシェ?」
「シーギスルンド……破算したんじゃないのか?」
「ご挨拶だな!」
幼馴染にいきなり聞くことか!
「俺はそんなに強欲じゃないっての」
「そうか。私はてっきり、薬草でも大量に買い込んで運べなくなって、体中につけて歩くような真似でもしてるかと思ったよ」
「鋭すぎる読みだ!」
実際いたよ! 俺じゃないけどね!
「まあ無事なら良かった。この城の周りも大混乱だ。近くの村では、宿屋が何軒も廃業してほとんど泊まれない状態らしい」
彼女の声に悲しみが混じる。そんな状態なのか……。
「次に魔王がゴールドを上げるか下げるか、全く分からない。異変があったら、すぐに教えてくれ」
「分かった! またね、ドラちゃん!」
通信を切って、ハクエン村に向かって歩き出す。
「おわっ、ウィングスライムだ」
黄色いぷにぷにしたスライムに羽が生えている。
でも、飛んでるとはいえ、スライムはスライム。弱いけど、どこにでも出る。
長い付き合いなので、だんだん可愛く見えてきたぞ。
「さて、ゴールドをどんだけ操作しても、もう動じないから、なっ!」
剣を軽く2回、上から下、左から右に振って、4つに斬る。突進して仕留めたその後ろで、パンッと弾ける音。
堅実に、着実に。これまでのどの魔法よりも独特で、でもどの魔法より国を揺るがせているゴールド操作。その使い手である魔王を、絶対に倒さなくちゃいけない。
「ハクエン村に行くまで、ゴールド貯めておこ――」
トンッ
「…………え?」
「………………は?」
動じないと言った矢先に、言葉が止まる。
コインではなく、銅色の棒が数本、地面に落ちていた。
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