14.富むと仕事も生まれるもので <1>

「重い……」

「アンナちゃん、重い重い言わないで……余計重く感じるから……」

 リュックを背負う女子2人が、息を切らす。


「アンナさん、イルさん、頑張って下さい……トローフまでは今日中に着けると思うので……」

 その少し前を、俺とレンリッキが同じくリュックを背負って先導していた。



 トローフ村へ向かい、早数日。その一番の敵は、モンスターでも傾斜の激しい川沿いの草原でもない、モンスターが落とすゴールドだ。


 昨日、また落とすゴールドが上がり、通常落とす額の10倍近くになっている。スライム1体30G、ゴールドゴーレムは3200G。俺達の所持金は3万を超え、4人でリュックを用意し、分担して運ぶことになった。


 それにしても重い。モンスターが出るたびにリュックをおろさなきゃいけないバトルなんて、歴代の勇者には想像もつかないだろう。



「アンナリーナ、なんか良い魔法ないのかよ……物を浮かせるみたいな」

「あのね、そんな不思議なこと出来るわけないでしょ」

「手から火の玉出すヤツの言うセリフか!」

 それだって十分不思議だよ!



「あれ、あそこにいるおばあさん、何でしょう?」

 レンリッキが少し遠くを眺めながら指を差す。


 そこには、荷車を後ろに置き、草原に敷き物をひいてちょこんと座っているおばあさんがいた。


「何も広げてないから、中古の武具商じゃなさそうね」

「アタシ分かった! 中古の食べ物とか売ってるんじゃない? コーヒーとか」

「中古のコーヒーって何なんだよ。口つけてあるのかよ」

 それ欲しいヤツがいるとお思いでしょうか。


「預かり屋みたいな悪い人じゃないといいけど……ちょっと行ってみよ!」

 全員で近づいてみると、厚紙で「両替商」と看板を作っていた。人の好さそうなおばあさん。髪は完全な白髪になっている。

 荷車に積んでいる幾つもの麻の袋には、大量のゴールドが入っていた。


「こんにちは。あの、両替商って……?」

「いらっしゃい。あんた達、細かいゴールド持って移動するのは大変だろう? それを100Gコインに替えるんだよ」

「そんなサービスが……」

 イルグレットにニコニコと笑って答える。

 本当に、必要は発明の母。ゴールドが普通の額なら絶対に生まれてない。


「もちろん、商売だから多少の手数料はもらうけどね。100Gに付き5Gだよ」

「1万G替えようと思ったら500Gか、結構高いな……」


「何言ってるんだい。あたしはトローフ村から来てるんだけどね、今は宿屋一泊で400Gだよ」

「そんなにするの!」


 そんだけ払ったら何かステキなサービスでもあるんでしょうか! 受付に新しく入ったグラマラスなオネーサンが添い寝してくれるみたいな!


「まあ、あたしは家があるから宿屋は使わないけど、そのくらい値段が上がってるんだ。酒場に行って酒でも飲めばすぐに500Gを超えちまう。このくらいの手数料じゃないと生活できないのさ」

 なるほどな。確かにそこまで物価が上がってるなら、この手数料もやむなしか。


「それに、この辺りのモンスター2、3体倒せば、500Gなんてすぐだろう?」

「まあな。よしみんな、交換しようと思うんだけど、どう思――」

「交換しなきゃアンタを破裂させるわよ」

 遮って賛同、というか脅迫してくるアンナリーナ。文句がいちいち怖いんだよ。


「じゃあ、俺達のゴールド、全部100Gに替えてくれ」

「あいよ、じゃあ一緒に数えておくれ」


 こうして、リュックのゴールドを全部出し、金額を数えていく。

 3万と4400Gちょっと。これを全て交換し、俺達の手持ち硬貨は350枚くらいになった。


「わっ、軽い軽い! これならまた僕1人で持てますよ!」

「あー、後ろに何もないってラクね!」


 腕を伸ばして固まった体をほぐすイルグレット。アンナリーナも、自分の身軽さを確かめるように、嬉しそうにピョンピョン跳ねていた。


「手数料、1720Gだね」

「おう、そのくらい払う払う! いやあ、ホントにありがとな!」

 俺も、体が軽くなった喜びを噛み締め、お礼を言いつつ100Gコインで払う。


 こんな大金を抵抗なく払うなんて、ちょっと前のゴールド下がる魔法の頃は想像もしてなかった。金銭感覚が麻痺しているのが、自分でもよく分かる。


「じゃあ、俺達もトローフ村に行くから。またな、おばあさん」

「そうかい、あたしも今日は大分交換できたし、そろそろトローフに帰ろうかね」


 おばあさんがニコニコしながら、荷車の麻袋に俺達のゴールドを入れる。もともと入っていたのと併せて、袋はほぼ満杯になった。


 と。



 パアン!



 タイヤがパンクした。


「おや、これは困ったね。あんた達、悪いけど一緒に村まで運んでくれるかい」

「そんなバカな!」


 結局、4人でさっきより重いゴールドを運んだのだった。

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