4.思わぬものが高値で売れるもので <2>
翌日。眠い目をこすりながら、またモンスターを倒しに出かける。
今回は、少しオーゼ村から離れた場所へ。戦いにも慣れたので、もう少し高いゴールドを落とすモンスターが出そうなところまで行くことにした。
「しっかし、魔王に近づくためじゃなくて、ゴールドを稼ぐために先へ進むってね……」
「いいじゃない、シーギス。G稼ぐのも、魔王倒すのも、立派な勇者の仕事よ」
「前者は絶対違うと思います」
目的と手段が混ざってますよ!
「ねえ、あれ、何してるのかしら?」
イルグレットが指し示す先には、剣や鎧を布の上に広げ、座り込んでいる男性の姿があった。
「ああ、中古の武具商ですね。壊れてるのを直したものや、拾ってきたものを売ってるんです」
レンリッキが答える。ううん、さすがアイテムマスター、中古の事情にも詳しいんだな。
「へえ、思ったより色んな武具が――」
近づいて商品を見ていた彼の声が止まる。
「おじさん……これ、いくら?」
「ああ、全部40Gでいいよ。この斧とかも、欠けちまって使い勝手悪いしな」
「ちょっと待ってて、今手持ちのお金が……」
持っているお金を数えるレンリッキ。隣で覗いていると、42Gあった。
「おじさん、この欠けた斧ちょうだい!」
「あいよ!」
ええええええええっ!
「待て待てレンリッキ! 気は確かか! ボロボロだし誰も斧なんか使えないし――」
「大丈夫、任せて下さいシーギスさん!」
グッと親指を立てると「オーゼ村に戻ります!」と言って走りだした。
「どしたの、レン君」
「レンちゃん、変なこと考えてなきゃいいけど……アタシ心配」
「宿の宿泊権を売ったお前に言われたくないよっ」
アンナリーナにツッコみながら、今朝までいた村に戻った。
「よし、ここです!」
武具屋に入っていくレンリッキ。立派なひげのおじさんが迎えてくれる。
「いらっしゃい、良い鎧が入ったよ!」
「おじさん、この斧買い取って!」
さっき中古で買った斧を渡す。多少あのおじさんが手入れしたんだろうけど、刃は錆びていて、一部は触ったら崩れそうなほどボロボロだった。
「ううん、こんな状態だとせいぜい10G……ちょっと待て、これはひょっとして、アンシエルアックスじゃないか!」
ニヤリと笑うレンリッキ。初めて聞いたぞ、そんな名前の斧。
「そう、バートワイト近海で絶滅しかかってる貝、アンシエルの殻を原料に使った斧だよ。希少性がそれなりに高いから、コレクターの人にはこの品質でも高めに売れると思うけど」
「もちろんです、これなら170G、いや、200Gで買いましょう!」
えええええええっ! 2、200G! 40Gで買ったのに!
「ありがとう、おじさん。また来るよ」
10G硬貨をジャラジャラと受け取り、レンリッキはニコッと微笑んで店を出た。
「あの中古の武具屋、手入れのスキルはそれなりにあるみたいだけど、価値のある武具を知らないみたいです。もっとも、見極めができるのは僕達アイテムマスターくらいでしょうけど。あそこにはまだ4つか5つ、レアなものがありました。今度は200Gで買って、またここに売りに来ましょう」
「レンリッキ様……っ!」
拝む3人。そのまま中古の武具商と村をもう一往復し、全てのレアな武器と防具を売って得たお金は630G。目標金額達成!
こうして無事に、特殊な糸で編まれた防具4人分とイルグレットの弓を買うことができ、俺達はレンリッキ様の荷物を交代で持って差し上げながら、次の村、シアゾットに向かった。
「ふう、ようやく着いたわね!」
アンナリーナが、赤茶色のレンガ屋根の家々を見ながら、こっちを振り向く。汗で少し光っているアップにした髪は、男には出せない色っぽさがあった。
ここ、シアゾット村まで来るのに丸4日。オーゼ村で買っておいたパンを食べつつ、モンスターに襲われないよう交代で寝つつ、ようやく辿り着いた。改めて、この国の広さを感じる。
「まずは宿屋でシャワー浴びさせて。私、もう汗で体中ベトベトよ」
「ああ、俺もだ」
まだ夕方じゃないけど、もう宿屋は入れるはず。
「ちょっとシー君、今私が召喚獣のエレクサタンと一緒にシャワー浴びて、2人でキャッキャしながら泡にまみれてるところ想像したでしょ。エッチ」
「なんでいちいち召喚獣がセットになるんだよ!」
あんな気持ち悪いヤツと一緒に入ってるのは何か想像したくないっ!
「この村の宿は、夕飯付きで1人11Gですね、確か。今は、えっと……180Gありますから、新しい武具なんかを揃えるには足りませんが、宿泊は大丈夫です」
レンリッキに手持ちのゴールドを数えてもらいつつ、ベッドのマークの看板に向かう。もうすぐ汗を流せると思うと、自然早足になった。
「すみません、夕飯付きで4人宿泊お願いします! すぐシャワー貸してもらえますか!」
受付カウンターに身を乗り出すようにして指を4本出すアンナリーナに、おばさんは少し笑いながら「シャワーね、使えるよ」と返す。
「4人だから、と。36Gだね」
「あれ? 44Gじゃないの?」
首を傾げるアンナリーナ。レンリッキもカウンターの前まで行くと、おばさんは鼻でフーッと息を吐いた。
「モンスターが落とすゴールドが減ってるだろう? そのせいで、みんな宿屋に泊まらなくなってるのさ。だから少し前から2G値段下げて9Gにしたんだよ。それでもなかなか満室にならないけどねえ」
「そう……なんですか……」
言葉を詰まらせるレンリッキ。
そのとき、彼のポケットから、緑と黄色の混じった蛍光色の光が漏れた。
「声霊石……ドラフシェさんだ!」
石を取り出し、手をかざす。
「やあ、レンリッキ」
「ドラフシェさん、ちょうど良かった。経済省に伝えておきたいことがあるんです。僕達、今シアゾット村にいるんですけど、宿屋の値段が――」
「下がってるんだろう?」
先回りするドラフシェの回答。
なんで分かった? いや、違う、彼女は経済省として、この状況を知っていた……?
「村を周っている省の調査員から聞いたよ。勇者達がゴールドを使うのを控えている結果、どこの村でも宿代や道具の値段がどんどん下がっている。おかげで国の経済は大混乱だ。魔王め、ここまで読んでいたのなら、なかなかの策士だな」
苦笑いしているような彼女の声が、宿屋の受付に静かに響いた。
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