3.召喚したはいいけれど <1>

「ううん、高いなあ」

 レンリッキが手で口を押さえながら呻く。


 もちろん、銅の剣がそのくらいするのはずっと前から知ってる話で、絶対的にこの金額が高いってわけじゃない。ただ、モンスターが落とすお金が減ってるので、手に入れるための労力はかなり大きい。


「おじさん、少し安くならないですか? 僕ら、お金稼ぐの結構大変で」

「ふうむ、他に欲しがってる勇者も多いから安くはできないけど、鞘だけなら先に50Gで売ってやるぞ?」

「鞘だけもらっても!」

 普段はおとなしいレンリッキが思わず叫んでツッコむ。


「いい方法だろ、勇者さん? で、あとで刀本体を220Gで買ってもらう、と」

「総額上がってんじゃん!」

 俺は騙されないぞ!


「ねえ、弓はある?」

 イルグレットが尋ねると、おじさんは横の棚から1つを引っ張ってきた。

「今あるのはこの弓矢だけだね。一部が鉄で出来てるから、射る力はお譲ちゃんの背中にあるやつより強いと思うよ。160Gだな」


「ううん、すぐには買えないわねえ」

「なるほど、それなら弓は置いておいて、先に矢だけ40Gで――」

「まだその作戦が通じると思ってる!」

 イルグレットにもツッコませた。このおじさん、結構な逸材だな……。


「お譲ちゃん、弓矢以外は使わないの? 短剣とかなら安いのあるけど」

「ええ、弓しか使えないの。私、サモナーだから、基本的には召喚獣に戦ってもらうのよ」

「おや、そうかい。ちょうど最近珍しいものが手に入ったんだよ」


 言いながら、彼は柔らかそうな素材の、マントのようなものを取り出した。レンリッキが驚いて大きな声をあげる。

「召喚獣用の防具だ!」

「お、よく知ってるね。伸び縮みする素材だから、ある程度のサイズまでは使えるよ。これで、召喚獣がやられないように――」

「買います!」

「早いよ!」

 値段も聞いてないのに即決するなよ! さっき弓矢に躊躇してたのに!


「イルグレット、まずは俺達の冒険道具が先だろ」

「シー君、召喚獣は私の家族、いや、それ以上なのよ。シー君と召喚獣が溺れてたらどっち助けるか、分かるでしょ」

「なんとなく分かるけど言わないでおいて」

 なんか傷つきそうだからさ。


「イルちゃん、やっぱりアタシ達の武器を先に買った方がいいんじゃないかな?」

 ナイス援護だ、アンナリーナ!


「でもねアンナちゃん、もし貴女のお母さんが病気だったときに、お店で武器と薬売ってたら、どっち買う? そういうことなのよ」

「そっか、それなら仕方ない! シーギス、このマントを買おう!」

「その例えは絶対に違うと思います!」

 あと、簡単に言いくるめられすぎだと思います!




「ううん、地道に稼ぐしかないのかなあ」

 店を出て、レンリッキが近くにあった石を蹴ると、イルグレットがその石を足で止めた。


「私達の稼ぐ金額が下がってるのに武具の値段はそのままだからね。この村にしばらく滞在しないといけないかもしれないわね」

 と、アンナリーナが「ねえ、シーギス」と肩を叩く。


「どんどん先の村に行っちゃえばいいんじゃない? 魔王に近づくにつれてモンスターも強くなるんだから、減ってるとはいえゴールドも稼ぎやすくなるでしょ?」

「確かにそうだな! じゃあ先の村――」

「シーギスさん、この先の村では、更に強い武具が更に高い値段で売られてますよ」


 ……そうだった。稼ぐゴールドが上がっても意味がない。

 先の村で稼いでから、この村に武器を買いに戻ってくるか? いや、そんなことしてたら他の勇者に遅れを取ってしまう。


 大体、強いモンスターってことは倒すにも時間がかかる。それだったらスライムばっかり倒してた方が効率は良いかもしれない。


 あーもう、どうするかなー! 魔王も面倒なことしてくれたなー!


「とりあえず、冒険は先に進もう。モンスターと戦って稼ぎながら方針決めるか」

 村を出るために、みんなで歩き出してすぐ、レンリッキが地面の凹みにつまづいて後ろに転んだ。


「うわっと!」

「レンちゃん、だいじょぶ!」

「は、はい、なんとか。ごめんなさい、リュックが重くて、バランスうまく取れなくて……」


 彼の背負ってるリュックには、アイテムマスターらしく、薬草や聖水、魔力を回復するドワーフの水など、大量の道具が入っている。なかにはほとんど使ってないものも――待てよ……そうか、その手があったか!


「おい、戻るぞ!」

「ほ? どしたの、シー君?」

 早足で歩く俺に、3人が続く。


 向かった先は、薬草のマークが目印の道具屋。

「まいど! 何でも揃ってるよ!」

 威勢のいい兄ちゃんが、手をパンパンと叩いて迎えてくれた。


「ねえお兄さん、ここってアイテム買い取ってもらえる? 薬草とか」

「ああ、売れるよ。薬草は、と……売値が12Gだから、半値の6Gで買い取るよ」


 その言葉を聞いた瞬間、アンナリーナとイルグレットの視線は、アイテムマスターの背負っているリュックに向かった。


「シーギスさん、まさかと思いますけど、これは修行時代からコツコツ集めてた道具で……」


 首をぶんぶん振って茶色の髪を揺らす。

 返事をする代わりに、俺達3人はニタアァと悪い目つきになり、口元が歪んだ。


「アンナリーナ、腕を押さえろ! イルグレット、一緒に道具取り出してくれ!」

「了解!」

「いやだあああああああああ!」

「とりあえず薬草は5つあればいいだろ。おじさん、まず薬草15個買い取って! それから聖水8個! あと竜のウロコも10個!」


 こうして、今すぐに使わないアイテムを売り裁き、勇者シーギスルンドは無事に250Gで銅の剣を手にすることが出来たのであった!

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