2.これ1本にスライム250個分! <1>

「あれ……? あと2Gどうした? 遠くに飛んじゃったかな?」

 近くを4人で探し回ってみるけど、どこにもコインらしきものはない。


「おかしいな。1Gしか落としてないのか?」

「シーギス、アタシ分かったわ。残り2Gは、スライムの魂が一緒に持ってったんじゃない?」

「何その斬新な昇天スキル」

 そんなスキル身につける暇があるなら、もっと普通の攻撃魔法とか覚えると思うよ。


「本当に1Gしか落としてないようね。特殊なスライムだったのかしら? スライム界の中でも貧困層とか」

「お前はスライム社会の何を知ってるんだよ」

 格差が生まれるくらい発展してるんですね。


「政治の影響かしら、仕事辞めたりして一度落ちたら這い上がれない社会なのね、きっと。怖いわ」

「お前の妄想力が怖いよっ!」

 イルグレットとくだらないやりとりを繰り広げていると、後ろから3体、また黄色いスライムがやってきた。


「今度は私達が倒すわ。召喚獣に頼る必要はなさそうだけど」

「僕もスライムなら素手で戦います」


 イルグレットは背中に差した弓を構え、矢をセットして、スライムに向けて放つ。隣にいたレンリッキは体術を駆使し、後ろ回し蹴りで仕留めた。

 2人とも、召喚獣やアイテムに頼らなくても基本的な攻撃が出来るのは頼もしい。


「アタシは調子良いから派手にいっちゃうよ!」


 アンナリーナは両手を前に出し、呪文を唱える。すぐさま彼女の手から真っ赤な火球が生まれ、放たれた炎はスライムを跡形もなく焼き尽くした。


「よっし!」

 そしてコインが落ちる。3体倒したはずなのにしかし、集めたコインは1体分のゴールドにしかならなかった。


「やっぱり1体1Gになってる……レン君、こういう現象、聞いたことある?」

 イルグレットの質問に、茶髪を掻きながら焦ったように答えるレンリッキ。


「え、いや、聞いたことないです。え、え、何だろう、おかしいな」

 ずっと武具や道具の勉強漬けだったせいなのか、レンリッキは突発的な事態に結構弱い。


「えっと、えっと……そうだ、分かった! シーギスさん、残りの2Gは、魂が空に持っていったんですよ!」

「アンナリーナと一緒じゃん!」

 普段冷静なのに同レベルに落ちてる!


「このスライムが突然変異なのか、それとも――」

 

 キュー! キュー!


 この地域に異変が起きてるのか、という俺の言葉は、鳴き声に遮られた。

 ピンクの花弁が美しい花のモンスター、バトルフラワー。葉が足のようになっていて、素早く歩いてくる。


「アンナちゃん、あいつ、さっきの炎がよく効くと思うわ。確か倒すと5Gだったはず」

「サンキュ、イルちゃん!」

 アンナリーナがさっきと同じ魔法で焼き払う。落とした1Gコインは、3枚。


「こっちも減ってる……」

「シーギス、ひょっとして、みんなケチになったんじゃない?」

「お前はなんというか単純でいいな」

 可愛さすら感じるよ。


「スライムだけじゃないってことは、どうやらこの地域に何か起こってるみたいだな」

「あるいはシー君」

 白い前髪をサッと払いながら、イルグレットが真面目な表情になる。


「スライムの魂が浄化するために2Gかかるようになったのかも」

「だからなんでみんな発想の行き着く先が魂なの!」

 呼び止めてまで言うことか!


「シーギスさん、ドラフシェさんに連絡しておきましょうよ」

「あ、うん、確かにな」

 アイツ、経済省だからな。こんな異変知ったら驚くぞ。


「近いから城まで戻ってもいいですけど、せっかく渡したし、声霊石を使いましょう。繋ぎますね」

 声霊石に手をかざすレンリッキ。対になってる石を持っている相手と、声のやりとりをすることができる。


「ドラフシェ、聞こえるか」

「ああ、ドラフシェだ。シーギスルンドか?」

「あ、ああ」

 石から急に彼女の声が聞こえてくる。なんか変な感じだ。


「どうした? 魔王倒すのを諦めたのか?」

「諦めるの早いよ!」

「諦めて、酒場で床にこぼれた酒を拭く仕事にでも就く気になったのか?」

「なんでよりによってそんな仕事!」

 せめて給仕にしてくれよ!


「毒づいてる場合じゃないぞ、ドラフシェ。聞いて驚くなよ。この城の近くのモンスターが落とすゴールドが減ってるんだ。スライムを倒しても1Gしか落とさなかった」

「毒づきたくもなるさ」

 俺の持ち込んだ事件に驚く様子もなく、彼女は続ける。


「同じような報告が、他のパーティーからも来ている。しかも、魔王に近い村で村人を守っている勇者からも『ゴールドが減った』と連絡があった」

「…………は?」


 え、何それ? この近くだけじゃない? 他のパーティーが進んでる村でも、魔王に近い村でも、ゴールドが減ってるの?


「すみません、レンリッキです。あの、え? それって、何ですか? モンスターの体に異変でも起こってるんですか?」

 代わって質問をするアイテムマスターに、ドラフシェは大きく息を吐いてから答える。


「王国では、というか経済省では、


 レンリッキの口が、開きっぱなしになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る