Scene 8 ジュークボックス(After of “DEEP FRONT”)
「という経緯で、僕はここの支部長になったんだ」
あの事件から1年後、僕はN市支部の支部長室で、かつての武勇伝を部下であるエージェントに聞かせていた。ハヌマーン特有の朗々たる美声で語られた勇ましい物語は、彼女の心を引きつけ……たりはしなかったようだ。先程からしらけた目線でこちらを見ていた。まあ、“ヘイトフル”の死体をローストチキンに例えたあたりからすでにブーイングは飛んでいたが。
「支部長、最低……」
彼女はトレードマークである茶髪をいじりながらつぶやいた。どの辺が彼女に「最低」と思わせたのかわからないが、厳しい戦いを共に戦い抜き培ってきた信頼が、戯れの武勇伝に破壊されようとしていた。
「だいたいなぁ、お前が聞きたいっていうから聞かせてやったのに、なんだよその白けた反応は」
「まさかこんなに残酷な話とは思わなくて……特に“トランスミッション”ちゃんをいじめるくだりが」
「苛めてないよ!あれは彼女の精神的成長を願ったもので……」
「あれをいじめと言わずして何をいじめというんですか!支部長そんなんだから学校で友達出来ないんですよ!」
彼女は支部長用のそこそこ高級な机をばしばし叩いて抗議した。僕はそれよりも、友達が少ないというウィークポイントを突かれた方が堪えていたが。
「あと1つ。おかしいところありませんでしたか?最後の方の“トランスミッション”ちゃんのキャラ、全然最初の方と違った気がするんですけど」
「ああ、あれはほら、ハンドル握ると性格変わるタイプだったんだよ彼女。今思えば、お前と同じ<戦闘用人格>だったのかも」
「ふーん……」
彼女は考え込むようにして、また茶髪をいじり出した。同じ特徴を持つかもしれないエージェントの存在が、彼女の意識をこちらから逸らしてくれたようだった。
僕は彼女の様子を横目で見ながら、支部長用の机の引き出しを開き、中の書類を確認する。それは、この前の戦いで“ハッチェリーセル”なる集団から奪い取った資料の一部だった。
「僕の両親。生まれた理由か……僕にもセカンドチャンスが来てるのかもな」
「何か言いました、支部長?」
「いや、何も」
僕は引き出しを閉めると、もう少しで別れを告げることになる部下との馬鹿話にもっと付き合うことにした。
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