Ending Phase
Scene 7 セカンドチャンス(After of “Memorial Blossom”)
「……ということがあったんだ」
あの事件から2年後。N市市内の病室に俺はいた。先日の事件で救い出した幼馴染、徳永桜の見舞いがてら、昔の身の上話をしていたのだ。奇遇なことに、彼女の病室は俺が初めて機械の体で一夜を過ごした部屋だった。
「へぇ、大変だったんだね。牧原君も」
徳永は一連の話を、驚きをもって受け止めたようだった。もっとも、音声模倣システムとSEシステムによる臨場感たっぷりの語り口の方に驚いているのだろうが。
「しかし、それでは牧原のコードネームが“セカンドチャンス”になった理由は謎のままだな?」
同席して話を聞いていた今のN市支部長―コンピュータープログラムのレネゲイドビーイングだそうだ!―が疑問を呈する。
「それはほら、あの事件のあと咲口が名付けたんだよ。『君は第二の人生をこれから歩むことになる。だからコードネームは“セカンドチャンス”がふさわしい』って」
「しゃれてるなぁ」
「そうかぁ?まあ気に入ってはいるけど……」
「そうだ。もう1つ解決してない疑問があるよね?宮原さんの話ってなんだったの?」
「ああそれ、実は闇の中なんだよな」
徳永の疑問に、俺は首をひねりながら答えた。実はあの後、宮原飛鳥には記憶処理が施されてしまい。再会した時には約束のこともすっかり忘れていた。だから彼女がなんで俺を呼び出したのかは、今も謎のままなのだ。
「そりゃ、女性が男性を呼び出してする話と言えば1つしかあるまい」
支部長が胸を張るようにして言った。パソコンだから張る胸なんてないんだけど。
「うーん、でも本当にそうかな?」
徳永は少し顔を赤くして考え込んだ。一方、当の本人には何の話なのか見当もついていない。
「まあ……牧原君が鈍感なのは機械の体になる前からだから……」
「そうか……なら仕方あるまい……」
「一体どういうことなんだ?」
「ま、牧原君が気にならないんならべつにいいんじゃないかなぁ!」
徳永がきょどったように反応した。支部長は呆れた目を向けてくる(パソコンなんだけど!)が、本当に何のことかわからなかった。こういう話題の時ばかりは、頭の中の機械も助けてくれない。
「しかし、私の先代の支部長にそういう経緯があったとはねぇ」
パソコン支部長がしみじみとした口調で話を変える。
実はこの話にはもう少しだけ続きがある。あの後、UGNチルドレン“ジュークボックス”こと咲口十九朗は、事件の後始末に八面六臂の大活躍をし、現職の支部長を追い落とす格好でN市支部の支部長に就任したのだった。しかし就任からわずか1年でその職を辞し、今もって行方知れずという。その理由は……。
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