Scene 2 咲口十九朗
気づいたときには、車はひっくり返っていて、僕は助手席で逆さまに座っていた。
ふらつく頭を働かして、何が起こったのか思い出そうとする。確か……USJのアトラクションめいてこの車が高速道路の高架から飛び出したのだ。その原因は……そうそう、新人のUGNチルドレンが功にはやったのだった。
僕と運転手、それをそのUGNチルドレンは3人で任務に向かっていた。僕は運転手と自動車で、もう1人のチルドレンはバイクでそれと並走する格好で移動していた。そこにFHのエージェントを乗せた車両が接近し、戦闘になったのだ。
交通量の多い高速道路でのエフェクト使用は、ワーディング程度のものでも一般人を巻き込こむ大事故に繋がる危険があった。なので僕は、一般道に降りるまで時間と距離を稼ぐように2人に命じたのだった。それをあのバカは無視し、僕らの乗る自動車の前に飛び出した。それを回避しようと慌てた運転手がハンドル操作を誤り、後はジェットコースター、という流れだったのだ。
「あのやろう……」
僕はとりあえず悪態をついておくと、運転席の方を見る。運転手の少女は僕と同じように、逆さまに座っている。意識はないが息はあるようだった。車が爆発したりするとことなので、取り急ぎシートベルトを外し、彼女も引きずりながら車内から脱する。フロントガラスが粉々に砕けていたのであまり苦労はしなかった。
しばらく彼女を引きずって移動していると、彼女が目を覚ましたようだった。
「ううん……あれ……?ここは?」
「転落した高速道路の真下だよ。大丈夫?頭とか打ってない?」
「ああ、はい。大丈夫だと思います……あ!“ヘイトフル”は?敵はどうなりました?」
彼女は怯えたように周囲を見渡す。彼女もUGNチルドレンで、今回が初任務だった。それで敵の攻撃で事故を起こせば、怖がるのも当然だろう。“ヘイトフル”というのは、功にはやったバカのことである。
「敵はもう去ったんだろう。もしその気なら、僕らにとどめを刺してるはずだ。“ヘイトフル”は……」
彼女を安心させるために、まずは敵が傍にいないことを保証してやる。とどめといった瞬間に彼女の震えが増した気がする。怪我の影響で寒気でも感じているのだろうか。一度きちんと検査したほうがよさそうだ。
次いで、事故の原因を探すためにあたりを見渡す。しばらく周囲を観察していると、少し離れた所の電線に、人が引っかかって黒焦げになっていた。傍に落ちているバイクから察するに、あのローストチキンが“ヘイトフル”なのだろう。僕はとりあえずそちらを指さしながら彼女にそのことを教えてやる。
「ああ、よかったよかった。ほら、“ヘイトフル”ならあそこで黒焦げに」
「全然よくないじゃないですか!死んだんですか!?」
彼女が悲痛な叫び声をあげる。ジャーム化せずに素直に死んでくれたので“よかった”と言ったのだが、彼女はそうは思わなかったらしい。
「ああそうだな。全然よくない。あのバイクは僕の私物だ。あれじゃスクラップだな」
「バイク何てどうでもいいじゃないですか!仲間が1人死んでるんですよ!し、しかも私のせいで……」
「いや、君のせいじゃないさ“トランスミッション”。むしろ奴のせいで僕らが死にかけたんだ。文句の1つ言う権利すらあろうというもの……どうした?」
話の途中で、彼女の反応がないことに気がついた。彼女は、別の1点―墜落した、自分たちが乗ってきた車―を見つめていた。
「あれ……あの車の下、誰かいません?」
彼女が指さす、車の下に、高校生くらいの少年が潰れていた。アスファルトを血で真っ赤に染め、ピクリとも動かない。
「ローストチキンの次はパンケーキか。フルコースだな」
“トランスミッション”の目線がどんどん冷たくなっているのを感じる。彼女の心理的負担を軽減しようとさっきからユニークな物言いを心掛けているのだが、一切通じていないようだった。同い年なのにジェネレーションギャップだった。
僕はその場に“トランスミッション”を横たえ、支部に救援を要請するように命じると、再び車に近づいた。かがみ込んで下敷きになっている少年の様子を観察する。首筋に指をあててみると、まだわずかに脈があった。まだ生きている。
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