Second Chance

新橋九段

OP Phase

Scene 1 牧原双二

 雨が降ろうが槍が降ろうがという決まり文句がある。どんな状況にあっても必ずという意味で使われるものだ。雨というのはまあ、わかる。カメハメハ大王でなくとも、雨が降っている日というのは憂鬱で、物事をすべて投げ出したくなるものだ。稀に、雨が好きという人もいるが、一介の男子高校生である俺にはそんな風流な心の持ち合わせはない。雨音を聞きながらお茶を嗜むより、友達と駄弁りながらコーラを飲む方が好きだ。

 問題は槍という部分である。槍が降るという状況は通常、考え難い。雨雲がどんなやんちゃ心を出したとしても、雹がせいぜいだろう。無論、ゴルフボール大の雹でも当たれば人が死ぬわけで、それこそ槍が降ればどんな人間でも命はない。だからこその比喩表現なのだろう。

 なんで俺がこんなくだらないことを考えているかというと、2つ理由がある。1つは、友人との約束にそんな表現を使ったからだ。友人は、槍なんか降らないよなんて笑って流していたが。

 もう1つの理由は、今まさに俺の真上に、槍ならぬ自動車が降ってきているからだった。本当に真上。まるで俺を狙ったかのようにきれいに、頭上の高速道路から飛び出した車が迫ってきていた。

 人間、本当にやばいときは案外冷静なもんだと祖母に言われたことがあるが、確かにその通りだった。年の功万歳。自分に死が迫っているというのに、考えることと言ったら槍が降る話だ。あとは精々……きっと運転手も死ぬだろうから、文句は天国で言うしかないということか。いや、運転手は事故を起こした罪で地獄行きだろうか。

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