第3話 掃除時間ー蓮司sideー
新しいクラスになって約2週間。
新しいクラスになったからって、何かが変わるわけじゃない。
強いてあげるとすれば、掃除場所が変わったこと、教室が4階になったことと時間割が変わったことくらい。
俺のクラスの掃除場所は、教室と西階段。
グループ制で、教室掃除に1グループ。
階段掃除に1グループ。
1グループ5人で行う。
俺のクラスは、40人だから8グループできる。
俺のグループは、この間教室掃除が終わったところだから当分ない。
だから、今日は帰るのみ。
「蓮司、今日はバイト?」
「ねぇけど。」
「じゃあ、帰るわよ。」
なんで、こいつは命令形なんだよ。
「俺もー!!」
ピンポンパンポーン
〖2年F組 星野 大和。至急、職員室の宮沢まで来るように。〗
・・・。
「何やったのよ。」
宮沢とは、俺らの数学の担任だ。
「どうせ、小テストで0点だったんだろ。」
「おまえらひでー!・・・いってきます。」
「先、帰っておくわ。」
「待ってもくれねぇのかよ!!」
バタン!!
「・・・帰ろ。」
「そうね。」
そういって、麗と歩き出し、下駄箱についた瞬間。
「あっ、スマホ忘れた。取ってくるから先帰っといて。」
・・・忘れてねぇけど。
「いいわよ、待っとくわよ。」
「ついでに、借りてた本返しに行くんだよ。」
「そう・・・じゃあね。」
全部嘘だ。
ただ、今日はカラオケに行きたいだけだ。
中学のころからこうやって嘘ついては、カラオケに行った。
その頃から、大和はすぐに帰るのに、麗はしぶった。
・・・麗の気持ちに気づいてないわけじゃない。
たぶん俺以外気づいてないだろう。
麗が俺を好きだって。
いつか、麗が俺に告ったらどうなるんだろう。
そんなことを考えながら教室のある4階まで上がった。
「何やってんだ、俺。」
4階に、教室に用はない。
階段を上がるのも麗を納得させるためだけだ。4階まで上がる必要なんてない。
帰ろうと思ったとき、やけにF組の教室が静かだった。
「まだ、掃除時間だろ?」
F組は階段のすぐ横の教室だ。一番うるさくて普通なのに。
教室の中には、小谷だけが掃除をしていた。
あぁ、そういうことか。
押し付けられたんだろう。言い返すにも、ホワイトボードに書かなければならない。たぶん、言い返す暇もなかったんだろう。
そしてこれからも、押し付けられるだろう。
小谷は、教卓を戻そうとしている。
女子一人では持ち上げられるはずないのに。
それでも、必死に持ち上げようとする小谷が、かわいくて、輝いて見えた。
「女子一人で運べるわけねぇじゃん。」
小谷は驚いていたが、俺は気にせず教卓を運んだ。
「何してんだ、早く終わらせようぜ。」
小谷は、笑って‘‘ありがとう!”と言った。
その笑顔は、ひまわりようではなくて、アイリスのようでとても愛しく思えたんだ。
・・・カラオケなんて行かなくていい。
小谷と一緒に掃除をすることが楽しいと思った。
ふたりで掃除を終わらすと、もうどの教室も静かだった。
『本当にありがとう!たすかったよ!!ほんと、瀬戸君には助けてもらってばかりだよ。』
「別に。助けようとか思ったわけじゃないから。ただの気まぐれ。」
『もっと嬉しいや。』
は?
「何でだよ。」
『こういうこと、よくあるんだ。助けてくれる人もいるんだけど、みんな口をそろえて言うんだ。“声が出ないのに、押し付けられてかわいそうだったから”って。なんか素直に喜べなくてさ。だから“ただの気まぐれ”は私にとってうれしいことなんだ。ありがと!』
あぁ、小谷はいつも何気ない言葉で傷ついていたんだな。
それでも必死に前を向いているんだ。
俺は、そんな君に恋をするなんて思わなかったんだ。
いや、もうこの時には、落ちていたのかもしれない。
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