第2話 声なき会話~まどかside~

教室には、たくさんの人が喋っている。


“おはよー”


・・・だけど、その声は誰にも聞こえない。


「え・・・?あの͡子って喋れない子じゃない?」


っ!!


私は、2年前に事故に遭ったショックから声を失くした。


私は、周りの声から逃げようと必死に本の世界に逃げた。


ギー、ドスン。


!?


集中しすぎて隣の人が来たことに気づかなかった・・・。


私の隣には、強くて優しそうな綺麗な横顔があった。


私は、急いで前を向いた。


どうしたの?なんでこんなに胸がドキドキするの?


モヤモヤ・・・


ガラガラ!!


!?


「今日からこのクラスの担任をします、奥田 楓です。去年までは1個上の学年に居たからみんなのことあんまりわかんないんだよねー・・・。早速、自己紹介しよっか。」


・・・自己紹介。


大丈夫、黒板に書こう。


「有田 芽以です。えっと、好きなものは大根です。よろしくおねがいします。」


「猪野 茉子です。・・・」


どんどん進んでいって、ついに私の番に。


立ち上がると、


「あの子は、小谷 まどかさん。わけあって話すことはできないけど、聞こえてるから、普段はホワイトボードで会話できるそうよ。仲良くしましょうね。」


先生に紹介してもらった・・・。


とりあえず私は、“よろしくおねがいします。”と届かない声で言って、頭を下げた。


ホワイトボードには、’’黒板に書いていいですか?’’が残っているのに。


コンコン


私の机が叩かれたので、隣を見た。


綺麗な彼が私を見つめていた。


「自分で言いたいことあるんじゃねぇの?」


『あるけど、私は声が出ないんで、先生に紹介してもらえて良かったです。』


「なんだ、言いたいことあるんじゃん。俺も黒板に名前書くから一緒に書く?」


へ!?


『でも、そんなのいいです!』


「言いたいことは、自分で言えよ。」


……言う、声のない私はできるだろうか。


「次ー!」


「あ、俺の番だ。……行くぞ。」


君にだけでも、伝わるかな……。


声を失い、伝える術をなくした私は、心までも弱くなってしまったのかな……。


本当に伝える術はないのか。


私はただ、’’声''を失っただけ。


まだ、''自分''を失ってない。


私は、立ち上がったんだ。


「どうしたの?小谷さん。」


彼を見ると、彼は黒板の端に立ち、私と目が合うと小さく頷いた。


まるで、‘‘自分で伝えろ’’と言うかのように。


私は、ホワイトボードに『みんなに伝えたいことがあります。』と書いた。


「何?先生が・・・」


「お前は、引っ込んでろよ。」


彼は、黒板の端から動かずに先生を見ていた。


「お前って、教師に向かって何てことを言ってるの?それに小谷さんは、声が出ないの。私が代わりに言わなきゃ伝わらないでしょ。」


っ!!


「お前、デリカシーねぇな。声が出ないとか本人がいる前で言うなよ。こいつは、話したいんだよ。だから、お前に紹介された時も、今お前にホワイトボード見せた時も、口パクで言ってんだろ?・・・伝える手段は、声だけじゃねぇだろ。手話だって、筆談だってあんだろ。声だけだって思ってるお前は、ほかのやり方で伝えてる人を差別してんだよ。」


「さ、差別なんてしてないわ!」


「お前はただ、いい人ぶりてぇだけだろ。声が出ない生徒にこんなに優しいことをしましたって。・・・そんな自己満足の優しさはいいから、引っ込んでろ。」


君だけは、気づいてくれた。些細な言葉で傷つく私の心の叫びに。


君だけが、本当の優しさを向けてくれた。


私は、黒板に向かった。


『私は、小谷 まどかです。二年前に事故に遭い、精神的ショックから声が出なくなりました。私は、今声を探しています。みんなと違うことは、これだけです。私が欲しいものは、声と友達です。みんな、私と友達になってください!』


私は、口パクで読み上げると、勢いよく頭を下げた。


ゴツン!!


いったー!!


「「プッハッハハハハー!!」」


「教卓に頭ぶつけるとか、ドジすぎだよ。まどかちゃん!」


「ククク!それも結構な勢いで。」


「「ハハハハハー!!」」


私は、嬉しかった。


今まで、転んだだけですごい心配された。声が出ない子だから。


でも、このクラスは笑ってくれた。


久しぶりだった。自分のドジで誰かがわらってくれたのは、本当に久しぶりだった。


彼も笑ってた。その笑顔に私の心は、反応していたことに気づかなかった。


彼は、私の書いた自己紹介を消さずに、名前を書いた。


「俺は、瀬戸 蓮司。告白とかしないで。断るの面倒だし、断って泣かれるのとか大迷惑。それに、クラスメートだともっと面倒。以上。」


クラスの大半の女子ががっかりしてた。


この人、そんなにモテるんだ・・・。


確かに、顔も綺麗だし、身長高いし、優しいもんね。


ん?私、お礼言ったけ?・・・言ってない!!


ギー、ドスン


私は慌てて、隣に戻ってきた彼に手を合わせて、口パクでありがとうと言った。


ホワイトボードに書くことを忘れて。


でも、彼は、瀬戸君はそれを読み取って、「別に。これからは伝えたいこと、自分で伝えろよ。」って言ってくれたんだ。


瀬戸君に出会って、瀬戸君の隣の席で、私はただの女子高生だとわかったんだ。

ただ、声を失っただけの女子高生だと。


私は、自分で自分を差別してたんだね。


私は、ただの女子高生だから、あなたに恋をしてもいいですか?




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