第三話 自衛隊、王都に立つ
「王都ですか?」
「あぁ。」
この異世界、地球とは異なる世界で三日を迎えたわけだが、来た当日に現地人による手荒い歓迎に出迎えられて、次にはベルセルクというガラクタに襲われていた避難民の救助ときた。
故に、ちょっとやそっとのことでは驚きはしないと自身は思っていたのだが、蓮人から聞かされた言葉にまだ自身が少し驚いていることに自分も変に毒されているな、と思っていた。
「ついでだ。・・・・・・全員、集まれ!」
蓮人の集合の合図に、陸上自衛隊の『強化外骨格』を使用し武装している小隊、『強化武装特科』小隊の面々は蓮人の近くに集まった。
「集まりました、一尉。」
「それで、なにか?」
「なにかをおっぱじめるんで? ですが、武装も何もかも足りませんよ?」
何をどう思ったのか、野崎と同じ二等陸尉の
「あぁ、ちょっと待て。始めるには始めるんだが、そう手荒いことじゃない。」
二人の言葉を否定する蓮人であったが、手荒いことではないということはお手柔らかにでもするという意味であろうか、と野崎は思った。
「我々、『強化武装特科』と歩兵科、特科連中と戦車隊がここに来て、三日経つ。・・・・・・・初撃はこちらさんに取られたがな。」
「そうですが、迎撃しましたよ?」
「えぇ、野崎二尉の言う通りです。どこか変なところが?」
野崎のセリフに同意するのは士長である
「まぁ、聞け。その出鼻を挫かれたわけだが、援軍は送ってはこねぇわ、挙句の果てにゃ、避難民が出てくる始末だ。・・・・・・・・・その避難民も少ないがな。更にはここで危険視されてるガラクタときた。」
「・・・・・・・・・・ベルセルク。」
蓮人の言葉に、同意するのはこの小隊内では最年少の
まぁ、他の隊員である女性と同期であるという理由で、それはどうなのだろうかという対応をしている小隊長が気にしてはいないのだから、特に思うことはないのだが。
「そうだ。木原一士の言う通り、ベルセルクとかいうガラクタどもが、うろうろしてるせいで王国も帝国も我々に対する軍をそう簡単には送れはしないんだそうだ。・・・・・・避難してきた連中の話じゃな。」
そこで、
「第二陣を送ってこられる前に、こっちから
「待ってください、一尉。相手は王国と帝国、その二国だけなんですか?」
疑問の声を上げたのは、早瀬である。
「いや、厳密にはもう少しあるらしい。」
だが、
「我々の存在を知っており、尚且つ、我々を叩こうと敵対していると思われるのは二国だけとのことだ。」
早瀬の疑問に蓮人はそう答える。
「では、どちらから先に?」
そう蓮人に質問したのは三島であった。
三島の疑問に蓮人は一瞬渋るような顔をする。だが、それも一瞬のことで、言葉を出すときには元の顔に戻っていた。
「王国だ。避難民の連中も王国らしいからな。」
それに、
「位置関係は知らんが帝国の方は距離が遠いらしい。そう考えると、王国からになる。」
「では、王国に向かうということに?」
蓮人の言葉に、野崎は訊いてみた。
「そうなる。林原の補給隊からの土産で
ま、
「使わなかったら、使わなかったで歩兵科とかの連中が使うだろうさ。」
「確かに。
「数も足りてます。」
「ですが、示威行為なら
蓮人の言葉に新田と早瀬は賛成の意を言うが、蓮人にそう提案するのは斎藤である。
「示威行為だったら、折角ある10式を持ってた方が良いが、・・・・・言ったろ。ここには、ベルセルクっていうガラクタな魔物がいる。俺たち、『強化武装特科』が出払ってる間、連中を誰が相手をするんだ?74か?90か?確かに強いわな。」
だが、
「奴さんは群れで来る。歩兵科も特科も、この前人員を補充したがそれでも人員は少ない。使えるモノは残しといた方が、残る連中にはいい。」
それに、
「これは示威行為なんかじゃない。単なる話し合い、お話に行くだけだ。それだったら、楽な方が良いだろ。」
数も足りてるしな、と蓮人は付け足す。
「ってなわけで、王都に向かう。・・・・・・一士、すまないが上に付いてくれないか?」
「いいですが。・・・・・・私でなくとも良いのでは?」
「一士。君の目はかなりいい。
涼子に賞賛の言葉を言うと、他の小隊員に蓮人は訊いた。だが、全員手を上げることも反対意見を言おうとはしなかった。
その事に蓮人は反対ではないと、そう言っていると思うことにして、話を進める。
「そういうことだ。一士が警戒に上にいてくれたら、異常もすぐに分かるだろ?
・・・・・頼むぞ、一士。」
「了解。」
蓮人の言葉に涼子は頷いた。
「王都に向かうのは良いとして、どうします?誰も王都に行ったこともないんですよ?門前払いか、
「それは問題ない。先日助けた避難民がいるだろ?そのうちの一人が顔利きらしいんでな。彼に顔を利いてもらう。」
ま、
「利かなくとも突入するから別に問題ないんだが。」
蓮人の言葉においおい、と野崎たちは思った。
「ほんとに行くの、父さん?」
「あぁ。行ってくるよ、エミリア。緑の人が困ってるんだ。彼らの手助けができるとあれば、本望さ。それに、王都に忘れたものもあるしね。」
「だけど。」
エミリア・ハイエストは赤く長い髪を揺らして、父であるロー・ハイエストに訊く。どこの軍隊なのかはエミリアは良く分からない。ただ、軍隊でも苦戦するベルセルクの群れを容易に被害もなく撃破するほどの実力があるということだけは分かった。どこの軍隊かと短い白い髪をした緑の人に訊けば、彼女は素っ気ない声でこう言った。『ジエイタイ。』と。
ジエイタイ・・・・・・・・どこの軍隊なのだろうか、エミリアには分からない。ただ、これだけは言える。緑の人達はエミリアたちに危害を加えることなく、居住スペースと食事を提供してくれた。彼らは少なくとも危害を加えようとは思ってはいないらしい。
そんなことを思っていると、ききっとなにかの音が聞こえる。音がした方を向くと、ちょうど緑の人がローを迎えに現れたところだった。なにか丸くて黒いモノが二つ付いている四角い箱から出てきたらしいが、もしかするとその四角い箱が動くのだろうか。その箱の上にはエミリアの質問に答えた白い髪をした少女がいた。
「迎え、きた。」
「えぇ、待ってました、ニイジマさん。」
エミリアを助けた緑の人、レント・ニイジマと名乗った男性であった。言葉が途切れ途切れではあるが、話せるほどには言葉を知っているらしい。彼らはとても勉強熱心であるようだ。遠くに見える黄色い棒と棒が繋がり小型のシャベルの様な物体が繋がっているあの黄色い物体がどの様に動き、どの様な働きをするのかは良くは分からないが、アレが地面を掘り、道を平坦にして、土地を均している姿を見るに、彼らは魔法でも使っているのかと思ったものだが、ベルセルクが殺した土地を蘇らせたり、農業をして作物を作るほどの技術力を持っているらしいことには驚いたものだが。
「それで、行先はエルキミア王国でしたな。」
「ああ。頼める、か?」
「もちろんです。門番はいるかもしれませんが、顔を覚えられた入ると思いませので顔利きの役位はやらせてもいますよ。」
「無理は、するな。」
「分かってますよ。」
そうローは笑いながら言う。そんなローの態度に対しレントは心配するように目を細めていた。
「とまれ!」
「斎藤。」
「了解です、一尉。」
「一号車、停止。後続も停止だ。」
ローは蓮人たちが無線機を使って連絡を取る姿に興味があるような目で見る。しかし、訊いてくる様子はなかった。
斎藤は
「どこのどいつだ!名を名乗れ!」
「なんと言ってるのか分からないのですが、頼めますか、一尉。」
「ったく、人に頼む態度じゃねぇだろうが。・・・・・・・・自衛隊だ。」
斎藤の言葉に文句を言う蓮人であったが、門番に言うあたりは自分の仕事をやっていると見える。だが、悲しいかな、この門番は何も知らないただの一般人だった。
「ジエイタイ?どこの軍隊だ!」
「日本だ。」
「ニッポン・・・・・?知らんな!」
「突破しますか?」
「よせ、斎藤。一士もだ。こちらからは撃つなよ?」
『了解。』
まぁ、そもそもの話、自衛隊は軍隊ではないのだが。そんな話をしてみたところで意味はないであろう。
「ニイジマさん。私が出ましょうか?」
「頼める、か?」
「えぇ、喜んで。」
「一士。」
『見ずらいです。けど、善処はします。』
「頼む。」
後ろに座っていたローに席を替わる。
「ロー・ハイエスト!?貴様、生きていたのか!?」
「ベルセルクに嫌われましてな。そのおかげで、この緑の人に会えたわけですが。」
ローと門番との会話を蓮人たち自衛隊員は聞いていた。斎藤と涼子には二人がどんな会話をしているのかほとんど理解は出来なかったが、会話の雰囲気は理解できる。蓮人は二人の会話を理解していたが、今はローが話しているので自身の出番はないと蓮人は勝手に判断していた。
「それで、こいつらは?」
「ジエイタイという方々でしてな。彼らは王との会話を望んでおります。ちなみに言いますが、王との対話を拒否するというのであれば王都を潰すらしいので、そこのところ、良く判断なされますように。」
「王都を潰す!?ハッ、そんな奴らを入れることなど!」
「一応言いますが、ベルセルクに襲われていた我々を助けてくれたのは彼らです。・・・・・・・・・・意味は分かりますね?」
「ベルセルクを・・・・・・・だと!?」
「えぇ、あのベルセルクを、です。」
「分かった、通せ!」
「賢いご判断ありがとうございます。」
門番とローの会話をはらはらと緊張した思いで聞いていた蓮人であったが、ローが頭を下げて門番が引いていく瞬間に緊張の糸が切れたように、蓮人ははぁとため息を吐く。
「良く、言った、な。」
「嘘ではないでしょう?」
「まぁ、な。」
確かに、ベルセルクを相手にローたち避難民を助けた。だが、そこまで過大表現をしなくともいいとは思うのだが。
「どうだ、斎藤。」
「まぁ、自分には分かりかねますので。・・・・・・・・・おお。」
入り口の門をくぐった
門の先にあったのは、今はもうほとんど見ることはないであろう石造りの家々が立ち並ぶ中世ヨーロッパを思わせる風景が目の前に広がる。日本から出たことのない斎藤や涼子は驚きのあまり何も発することが出来なかった。
『後列に乱れが、・・・・・・・一尉。指示を。』
「・・・・・・・・・・・あ、あぁ、全車、風景を見るのは構わんが、車列は乱すな。」
『・・・・・・・・・りょ、了解です。』
涼子の連絡に蓮人はハッとして、小隊に連絡を入れる。
「どうですかな、王都は。」
「ああ。驚き、だ。かなり・・・・・・・・いいところ、だ。」
「はっはっは、いいところですか。私には見慣れた風景ですので、特に言う言葉はありませんが。ですが、貴方方の力であれば再現など容易なことでしょうに。」
「容易・・・・・・・違う。時間、かかる。手間も、かかる。人も、かかる。再現は、出来ない。」
ま、出来なくもないか、と蓮人は考えたが、それは言わなかった。再現をするなど容易とは思えるが、再現をしようにも人と時間がかなりかかってしまうだろう。下手をすれば、石造りのこの風景をセメントやコンクリートを利用した人の手など感じさせない無機物だらけにしまいかねない。そう考えれば、この様な風景は珍しいと思うであろう。
自衛隊の車両が見たこともない珍しいものだからであろうか、通りを過ぎるたびに多くの人からの視線を集めていると蓮人は感じていた。それもそうであろうとも蓮人は思う。馬での移動が移動手段だと取られているこの世界では、車というモノ自体が珍しいに違いなかった。
そうした視線を受けつつも、『強化武装特科』小隊の車列は乱れることなく進んでいく。その先頭を行く
「もしかして、あれが・・・・・・・。」
「えぇ。エルキミア王国の王城です。」
「でけぇ・・・・・・。」
蓮人はローに対して疑問の声を出すが、ローは蓮人が言い終わる前に答えを言う。その横で呆然した様子で斎藤は感想を言う。まぁ、静岡の山奥にある大きなものといえば、富士の山である富士山くらいしか目には映らないから仕方ないと言えば、仕方がないのかもしれない。近代的で巨大な建物など県内には存在などしない。あるとすれば、首都である東京くらいだろうと蓮人は思う。あくまでも、蓮人がそう思うだけの話なのだが。
「斎藤。」
「了解です。」
「全車、あの建物に向かえ。」
『了解です、一尉。』
蓮人は斎藤に指示を出した後に胸元の無線機に通信を入れ、全員に指示を出す。96
『一尉。騎馬が一騎接近中。・・・・・・指示を。』
「待機しろ、一士。こちらからは手は出すな。」
『・・・・・・・・・了解。』
涼子からの無線を聞いた蓮人は前方を見る。蓮人の裸眼では見えにくい位置から何やらこちらに向かってくるモノが見える。やがて、それが騎馬であると認識できた時にはお互いの位置はぶつかるまで数秒といったところであった。斎藤は
「奇妙なものに乗っているな・・・・・・。何者か!」
「我々、自衛隊。王国に、休戦、言いに、きた。」
「休戦とな・・・・・・・?もしや、門の近くに現れた連中か!?」
「そうだ。」
「であれば、王に会うと言うのだな!?」
「そう。」
「であれば、貴様をここで斬る!と言ったほうが良いのだろうが・・・・・・・・了承した!ついてこい!」
騎士は蓮人の返事を聞かずに馬を走らせる。蓮人は騎士の反応にふぅ、と息を吐き、
「ご英断でした、ニイジマさん。」
「戦う、こちら、不利。戦わない、お互いに、いいこと。なら、戦わない、正解。」
「そうですな。ここは王都の中。勝てる相手とは思いますが、王都の中は敵だらけ。なら、戦わないことが正解であると私も思います。」
「そう。」
ローの言葉にコクリと蓮人は頷く。戦わないことが今回の目的であり、敵に回してしまうことは目的ではない。戦車隊や歩兵科や特科などといった援護がない以上、いくら強い鎧である『強化外骨格』を身に纏い、戦える『強化武装特科』小隊とは言えども全滅する可能性も考えられなくもない。であれば、あの騎士はかなり頭の回転が良いのだろう。こちらを敵に回すか、味方にするか。その二択を瞬時に考え、どちらが王国にとって良い選択であるのか。それを瞬時に考え、答えを出せる人間となると、それなりには階級は高いのであろうと考えられた。
騎馬を追っていると、跳ね橋に差し掛かる。城の周りにため池を作り、籠城を考えるのは戦国時代の日本でも取られていた戦術の一つだ。橋を渡り終える前後に跳ね橋を崩すか、跳ね橋を上げるか。渡り終えるまでに崩してしまえば、城内に敵を一匹たりとも入れることはできない。だが、崩すということは、敵にも打撃とはなることだが、味方にも大きな損傷となりうることであるのだ。そうなった場合には、王都に住まう者が如何様になろうとも手を出すことはできないのだから。
ま、それは蓮人たち、外の人間が考えることではない。
橋が崩れることも上げられることもなく、
騎馬が停止して、騎士が馬から降り立ち、こちらを眺める。その近くまでに
「降車!」
「了解!」
蓮人が指示を出すと、斎藤が復唱して、きびきびとした動きで
「報告!『強化武装特科』小隊、三十名、総員問題なし!不明者はなし!全員います!」
「ご苦労!全員、休め!」
蓮人が指示を出すと、全員同時に足を肩幅に開く。その姿に騎士は終始圧倒された様子でいた。ローも騎士と同じく圧倒された様子でぽかんと口を開けていた。そんな様子の二人を他所に蓮人は騎士に向き直る。
「行っても?」
「あ、あぁ。案内しよう。貴様が指揮者だな。」
「同意。」
「付添人はいるか!」
「は、はい!私がいます!」
「ロー・ハイエスト・・・・・・・・っ!生きていたか!他はいるか!」
「他、いない。」
「よし、案内する。付いて来い!」
騎士がそう言い、蓮人たちの前を歩くと、ローが騎士の後に付いていく。そのあとに蓮人が付こうとするが、ふと違和感を感じ、振り返り、部下に指示を出す。
「全員、現場を維持せよ。こちらからは発砲するな。緊急時の対処は・・・・・・・・分かっているな?」
「『強化外骨格』を使用、ですね。了解です、一尉。」
「手持ちは補給隊のおかげで、こいつがありますが、使用は?」
野崎が言い終わると、新田が89式5.56㎜小銃を掲げる。この前、林原が来た際に、部隊に置いていった土産物の一つだ。今まで使用していた64式7.62㎜小銃でも申し分はなかったのだが、折角なので、無理を通してでも補充したかった武装の一つだ。狙撃銃とすれば64式7.62㎜小銃でも十分なのだったのだが、涼子の様な腕のいい
「出来ればするな。いいな?」
「・・・・・・・了解です、一尉。」
渋々といった様子で新田は頷く。
遅れるのはまずいと思い、蓮人は『強化武装特科』小隊の面子を置いて王城へと向かっていく。
「広い、な。」
「そうでしょう。帝国には、まぁ、負けますが。」
「帝国の方が大きいのは、私も同意するが、大きければいいという問題ではない。」
前を歩く騎士はローの言葉に同意しつつも、意見を言う。まぁ、東京ドームなどの大きい建物に比べれば小さいだろうが、蓮人にとってみれば大きいと感じられるほどの長い廊下に光を反射するほどにキレイに磨かれた鎧の数々に鎧に握らせている綺麗に手入れされた武具の数々。これほどの量の鎧や武具をそろえてもなお手入れを怠らないとはそれ相応の使用人たちの連弩の高さが窺えるであろうと蓮人は感じる。
「人件費、コスト、かかる。小さくても、十分。雇っている人、練度、分かれば、牽制、になる。」
「確かに。大きなお城であればあるほど、使用人を雇わなければ掃除も十分には出来ません。ですが、小さければいいという問題でもない。要するにその腕前が高ければ高いほど、それほどの腕があるということを知らしめることができます。そうなれば、他国への牽制となります。ニイジマさんは良くお分かりの様子で。」
「ほぉ。武具らしいモノといったら、背中に差しある先がない槍に似たモノしか持ってはいないではないかと思ったが、なかなか頭は働く様だな。その通り。いくら王が住まう城を大きくしようとも、使用人の腕が悪くては話にならん。牽制にもならん。挑発することと同じだ。それを理解しているとなれば、油断は出来ぬな。」
片言でしか彼らの言葉で彼らに話すことが出来ない蓮人であったが、言葉が通じないという状況がうまく働いてくれた様だった。この場に通訳としているローが蓮人の言葉をうまく通訳してくれるからであろうが。
そんなことを話しながら、進んでいると、大きな扉が現れる。
「これより、王の御前である。粗相はするなよ・・・・・・?」
「分かった。」
「もとより。」
「わかった。・・・・・・・・・・シルエス・ルーク、ただいま戻りました!」
「入れ。」
「ハッ!」
大声で騎士、シルエスが言うと、中から低い声が聞こえる。その声は年季が入っている老人の声であったが、同時に重みも感じられる声であった。
シルエスが扉を開けて中に入る。それに続いて、蓮人とローも続く。
王座と思われる目の前の場所には大きな宝石なりを飾った王冠を被っている老人とその隣の席に老人と同じような厚そうな毛皮の服に身を包んでいる女性の姿が見えた。普段の手入れを行っているからか老人と女性の肌や髪色からは下級民の様に平素なオーラは感じられない。どちらかといえば、高貴な上級階層であることを窺わせる感じが蓮人には受け取れる。日本人でもその様なオーラを出せる者は限られたものでしか出せないであろうと蓮人は感じる。・・・・・・・まぁ、貴族などといった人種は絶滅危惧種で蓮人の様な一般人が見ることなど滅多にないのだが。見ることがあるとしても、自身の階級がもう少し上がってからであろうが、出会う可能性はゼロに等しいであろうとも感じていた。
「それで、貴君は?」
「ハッ、陸上自衛隊、強化武装特科小隊、小隊長、新島蓮人一等陸尉、であります!」
「リクジョウ・・・・・。」
「ジエイタイ・・・・・?」
噛まずに自身の階級と所属する部隊名を言い終えることが出来たことに安堵する蓮人であったが、目の前にいる二人は訳が分からないといった表情をしていた。それはシルエスも同じであったが、ローはほっと安堵した表情をしている。
「・・・・・・・・ああ、そうだった。私はエルキミア王国の王をしているカロア・エルキミアという。隣は娘のセシルだ。」
「セシル・エルキミアです。」
「ハッ!」
二人の自己紹介に蓮人は敬礼で返す。そのきびきびとした動作に二人とも啞然に取られていた。
「それで、ニイジマさん。今回はどの様な用件で参られたか、訊いても?」
「ハッ!今回、我が祖国、日本にて、突如として、出現した門、それに多くの兵、による侵略を受け、我々、自衛隊は、自衛権を行使、それによって、門周囲を制圧、また、反撃を受け、これを迎撃、我々としては、これ以上の、戦闘は望まず、以上!」
「えー、要約すると、彼ら、ジエイタイは我々の侵略に対しての反撃行為を迎撃したうえで門の周囲一帯を制圧した。ですが、これ以上の戦闘は望んではいないので、話し合いに来たと言っております。」
蓮人の片言に話す話の内容をローは要約して二人に伝える。
「貴方は?」
「ロー・ハイエストと申します。今回の件にて、派遣なされた部隊の敗退で帝国の侵攻が予想されたので、王国を去った弱虫者でございます。避難した先でベルセルクに襲われたのですが、あと少しといったところで彼ら、ジエイタイの方に救われましてな。」
「なんと、ベルセルクにか!」
ローは腰を低くして、二人に言う。カロアはローの言葉に非常に驚いたといった声で話す。そのカロアの反応とは変わってセシルは驚きのあまり声が出せずに、口を手で覆っていた。シルエスはローの言葉が信じられないといった表情で目を見開いて蓮人を見る。だが、蓮人はそんな三人の反応にそれほど重要には思ってはいなかった。
「ベルセルクには、大なり小なり、かなりの被害が出るものだが、ニイジマさん。貴君の部隊に損害は如何様になったか、訊いても?」
「ハッ!我が隊に、損害は、ありません!」
「損害なしだと!それは誠かっ!嘘ではなかろうなっ!」
「ハッ!」
言ったところで信じやしないだろうが、と心の中でぼやきながら、蓮人は言う。その蓮人の言葉を信じられないといった表情をして、
「お父様。」
「王。」
「損害なし、なしだと・・・・・・・?異なる世界の民がベルセルクに損害も出さずに・・・・・迎撃した・・・・・・・・ハハハッ、冗談にしては悪いな・・・・・・・。」
「ですが、我が兵を退けたという言葉は確かです。先日派遣した兵が誰も戻ってはいないのが、その証拠。それに、ロー殿は確かな腕を持たれてもおります。その腕の確かな者が実力者に付き添っておられる。」
カロアが乾いた笑いをするが、シルエスは現実を現実だと思っていないであろうカロアに追い打ちをかける。そんなやり取りをするシルエスの言葉に蓮人は隣にいるローに確認をとる。
「凄い、のか?」
「はははっ、貴方方ジエイタイの方々には劣りますがね。私よりも強者はいないと自負しておりましたが、いやはや、世間の広さに驚かされました。恥ずかしいものです。」
どうやら、本当であるらしい。
蓮人はこの人優し気に微笑む男性、ローが信じるべきかどうかと悩む。だが、疑念の思いを振り払う様に頭を振り、目頭を押さえる。彼を信じていなければ、彼を連れてきてはいないのだ。であれば、答えは容易に出るというモノであった。
そんな様子の蓮人たちを他所にカロア達は困惑した表情で見ていた。もし、ここで彼ら、ジエイタイの扱いを間違えれば、国を滅ぼしかねない。派遣した兵士たちを倒したのであれば、彼らの実力はそれ相応のモノであることは間違いないであろう。
「・・・・・・・・一応訊くが、どうすれば良いか?」
「どう・・・・・・とは?」
カロアの質問に蓮人は何のことか分からずに聞き返す。
「決まっておる。我が王国の兵を退けた貴君らに我が王国は敗けたのだ。勝者は貴君ら、ジエイタイであり、王国ではない。であれば、勝者に従うのみ。」
「であれば、これ以上の、干渉は、しない、でくれ。」
「・・・・・・・・それで良いのか?」
「我が祖国、日本は、人も、国も、豊かでは、ない。だが、ここに、移り住む、ことは、できない。であれば、これ以上の、干渉は、するべき、ではない。干渉を、すれば、我が祖国は、貴国と、戦わないと、いけなくなる。それは、望んでは、いない。」
「しかしな・・・・・・・・・。」
蓮人はカロアに自国の実情を簡単に言う。まぁ、自衛隊として国土が侵略という攻撃を受けてしまった以上、倍にしても返さないといけなくなる。やられたらやり返す。自衛隊が自衛隊としている理由がそれだ。だが、いくらやられたからとはいっても、異世界の住人を皆殺しにするほどの国力は日本にはない。あったとしても、喧嘩早いで有名なアメリカか、国土が広い北国のロシアか。・・・・・・それはないか、と蓮人は思った。
だが、カロアの言おうとすることは理解はできる。敗戦国であれば、戦勝国の言うことに従わねばどうなることか知れたものではない。
であれば、と蓮人は口を開く。
「同盟だ。」
「なに・・・・・・・?」
「貴国は、日本に、敗けた。だが、日本には、貴国を、攻める、ほどの、力はない。であるなら、一部の、領地を、もらう。その見返りに、我が祖国、日本は、自衛隊は、有事の、際に、貴国を、救おう。」
ギブ・アンド・テイクだな、と蓮人は口には出さずに心の中で言うことにする。上が本来決めることではあるし、蓮人の一等陸尉という階級では少しやりすぎな話し合いである。出過ぎてるな、と蓮人は思った。
「そうなる・・・・・・・か。」
「お父様・・・・・・。」
「王。彼らは、ジエイタイは有事の際には手を貸すと言っております。我が王国には、帝国にベルセルクと多くの問題があります。であるならば、ここは従う方が無難かと。」
「そうだな・・・・・・・。」
カロアはシルエスの言葉に重々しく頷く。
「あい分かった。であるなら、後に書面を送ろう。言葉は分かるな・・・・・・?」
「少し。」
カロアの言葉の返事に蓮人は片手を床と並行に上げて上下に少し揺らす。
「では、私が通訳しましょう。よろしいですな?」
「助かる。」
思わぬ助けに蓮人はローに頭を下げた。
「王、ご英断でございました。」
「よせ。まだ終わってはおらぬ。始まっただけだ。」
「ハッ。」
蓮人とローの二人が去った玉座にはシルエスとカロア、セシルの三人だけとなったのだが、二人が去ったと同時に口を開いたのはシルエスであった。
「ですが、お父様。これから、如何致します?」
「うむ。門の周囲は彼らが制圧しておる。制圧されておる以上、迂闊には手は出せん。また、手を出そうとすれば、次こそ王国は終わる。」
「ですが、その様なことはできないと。」
「確かにそう言った。だが、我々は彼らの内情は知らん以上は、彼らが手を隠すことはいとも容易いことよ。」
「つまり、伏線であると。」
たったあれだけの話でそれだけの情報を引き出せるとは、流石王だな、とシルエスは王に感心を覚えた。
「セシル。彼ら、ジエイタイに行きなさい。」
「お父様!?ですが・・・・・・・。」
カロアの勧めにセシルは動揺した声を出す。
「お前の気持ちも分かるが、王国は、彼らに敗けたのだ。その我らに、彼らは有事の際には手を貸すと言う。敗者である我々に、だ。それほどの好意を無下にするわけにはいかん。」
確かに、カロアの言うことは理解できなくもない。彼ら、ジエイタイの好意に甘えて何もしないと言うのは、彼らの好意を無駄にしていることと同意義である。答える代わりとして、人質として渡すとカロアは言っているのだ。
そのカロアの言葉にセシルは苦悩しているようにシルエスには見えた。
「であれば、我が妹、キャロルも同行させましょう。」
「シルエス!?」
「良いのか?」
「セシル様、お一人ではご心配になられるでしょうし、メイドも同行できないでしょう。ですが、キャロルならば、メイドととしての心得がありますし、王城の騎士の妹としての人質の役にもなります。」
シルエスの言葉にカロアとセシルは恩を感じていた。
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