第一話 荒野に降りるは鋼の
一年後。
あの事件が経ってからしばらくそこにある門についての調査が多く行われた。
その結果、分かったことは二つ。
一つはこちらと向こうを繋いでおり、消えることはなかったということ。
もう一つは、こちらの文明より向こうの文明は遅れているということ。
それが分かったのは、偵察隊が行き来が可能だということを知り、安全が確保されるまで不明だったのだが。
そのため、向こうを知ることは、危険性を消さない限り出来なかったため時間が掛かってしまった。
まぁ、いきなり繋がってしまった認識できない異世界がどのような場所でどのような状態であるのかなど分かるはずもないのが、普通なのだが。
難儀なものだ、と
「一尉!」
蓮人を呼び掛けたのであろうその声に蓮人は反応する。
「・・・・・・・野崎二尉か。」
「主役の部隊長がどこに行ってんだ、って三島曹長が怒鳴ってましたよ。」
「・・・・・三島か。少しくらい外れただけでそれか。分かった、すぐに戻る。」
蓮人は野崎にそう言うと、門に目を向ける。
「・・・・・・・・・・いよいよ、だな。」
陸上自衛隊海外派遣部隊。
実際には派遣ではなく、遠征であるとの意見が多かった名前であるが、結局海外派遣という風に名付けられた。
戦闘車両10両以上、『強化外骨格』装着者40人以上、歩兵30人前後。
部隊にしては多いものであり、これから戦争でもするのかと思われそうではる。
しかし、これは戦争に行くのではない。
反撃に出るのだ。
部隊員がいる休憩地点、仮設食堂として作られた簡易テントに集まっている70人以上の自衛官たちがこれからのことを想像し、雑談している。
だが、『強化外骨格』を使用する『強化武装隊』には、『普通科』の自衛官は誰一人として寄り付こうとも話そうともしない。
それを横目に見ながら、休憩所の仮設食堂にて、日本で食べる最後の食事を食べようと
その涼子の腕には腕時計に似たブレスレットが嵌められている。
「・・・・・・・『強化武装隊』か。」
トレイに食器を置きながら、涼子の腕を見てどこの部隊であるのかを看破した自衛官は涼子にそう言った。
「・・・・・それが?」
「いや、大したことじゃない。だが、『強化武装隊』は前衛だろ?あんま食わない方が良いんじゃないかと思ってな。」
「問題ない。」
「・・・・・・・しかしな。」
「私は、狙撃担当だから。」
「担当ってなんだ?」
「担当は担当。」
心配そうに言う彼に対し、涼子は冷たくあしらい、食器が置かれたトレイを持って列を離れる。
「一士。・・・・・・流石にあれはないと思うぞ。」
そうして離れ、席に向かう涼子の後ろから声が掛けられる。その声に後ろを確認するように顔を振り向かせる。
それが誰かが分かると、涼子は口を開く。
「早川士長。・・・・・・・どれが?」
敬語もなく、ただ確認するように訊く涼子の疑問に早川は笑ってみせ、
「はっはっは。一応、級は上の、上官なんだがなぁ。・・・・・・・これでもマシな方なんだろうなぁ。・・・・・・だが、上官に対しての反応は変えた方が良いぞ。」
「善処する。」
「善処ねぇ・・・・・・・・・・・。」
涼子の言い分に早川は笑いながら、どうしたものかなぁ、と早川は頭を掻いてみせる。
そもそもなんで自衛隊に、しかも喧嘩っ早いとか言われてる『強化武装隊』になんで入ったんだ?、と早川の脳裏に疑問が浮かぶ。
この様な態度をしている涼子ではあったが、同じ部隊に配属され、何回か行われた訓練の中で分かったことだが、狙撃の腕は部隊の中ではダントツで一番の腕を持っているのだ。故に、無下に扱わない方がよさそうだと早川は思っていた。そのように思えるから、余計にこれさえなければいいのになぁと思えてしまうが、早川は何も言わずに共に歩く。
そうしていると、早川と涼子の二人は、空いている席に着く。
「『強化外骨格』とは言っても、『強化外骨格』を脱げば、『普通科』の連中と同じなんだ。それを忘れるな・・・・・・・・とは言いたいが、お前の場合、それが普通なんだよなぁ。」
敬語を使おうとしない涼子に早川は注意をする様に言うが、それが理解できない涼子は、繰り返し疑問をぶつける。
「だから、どれ?」
「いやだから、俺が上官・・・・・・・・・っていいか。善処するって言っといて早速、敬語付けないってどこが善処するってなるんだ?、って話なわけだが、慣れるしかない・・・・・んだろうなぁ。他の部隊には気を付けておけよ?」
「分かった。・・・・・・・・いえ、分かりました。」
今更になって敬語を使おうと訂正する涼子に、早川は肩を落としながら、
「訂正するなら、最初からやれよ・・・・・・・・・・。」
と早川と涼子が話しているところに、蓮人が食器を載せたトレイを持って現れる。その瞬間、ガタッと勢いよく涼子は立ち上がる。涼子が見せたその反応に早川は驚きながら、蓮人に声をかける。
「新島一尉。これからですか?」
「うん?・・・・早川士長か。まぁな。空いてる席を探してるんだが・・・・。」
「ここがあります、一尉。」
涼子はそう言うと、一人分のスペースを開ける様に席を詰める。涼子のその動作にやや驚いたが、勧められた以上は断ることはできないな、と蓮人は考える。
「別に、スペースを開けんでもいいんだがな。ありがとう、木原一士。」
「いえ、一尉と共に居られるということに大変光栄だと感じる次第であります。
一士という下の人間ではありますが、感謝の極み、有り難いです。」
「・・・・・・・・・・そうか。」
何処に感謝を感じたのか、それが蓮人には分からなかったが、涼子にとっては感謝を感じているらしいので指摘する気にはなれずに、彼女が開けたスペースに腰を下ろした。蓮人と涼子のやり取りを見て、早川は涼子にやや怒りというか、複雑な思いが生まれるのを感じ、
「お前な・・・・・・・・・・・・・・。」
「なんでしょうか、早川士長?なにか問題がありますか?」
「どうした、士長?」
指摘するように言った途端に、先程までのやり取りはなんのその、涼子が指摘するなと言っている様に感じた早川は流そうとしたが、しかし、先程のやり取りをしてることもあって、蓮人に伝えようと口を開いた。
「いえ、一尉。大した問題ではありません。・・・・・・いえ、・・・・・・その、一士の対応が、ですね・・・・・・・。」
「はて?何のことでしょうか?自分には何のことやらさっぱり分かりません。分かりやすいようにご教授お願いします。」
「・・・・・・だそうだが?」
とぼける様に言う涼子の言葉に、先程までいなかった蓮人が、何処が問題点なのか分からないという様に早川に疑問をぶつける。そのことで、早川はこれは指摘をしない方がいいのか、と思い、
「あ~・・・・・・・・・。いえ、自分の気のせいだったようです。」
「気が張りすぎてるんだな。気を楽にしておけ、士長。」
先程のやり取りを知らない蓮人は、気をほぐしておくように早川に言ってくる。蓮人の反応を素直に受け取りたい早川であったが、複雑に思えて仕方なかったのだった。
涼子の態度の豹変っぷりに早川はやや顔を引きつらせながら、蓮人に話を変える様に疑問をぶつけた。
「ところで、一尉。作戦の概要を訊いても?」
「ああ。あとで隊にも同じ説明をするんだが、・・・・・まぁ、いいか。今回は、戦車に装甲車と壁に使える連中がいる。『普通科』と『特科』、それぞれの盾に、我々が前に出て、『普通科』が制圧に移る。・・・・・・・・することは大してないぞ。」
先に出ると言った蓮人の言葉に、涼子は内容を察し、指摘するように訊いた。
「・・・・・・・・・・盾、でありますか?」
「そうだ、一士。『強化外骨格』での戦闘は我々、『強化武装隊』の最もたる、他にはない力だ。・・・・・・・前回の戦闘でやりすぎたから自重するように、ととっておきを渡されたからな・・・・・・・。」
とっておき、それが何を意味するか、一瞬それが理解できずに、早川は疑問を声に出す。
「とっておきですか?・・・・・・・あぁ、高電圧のボルトアンカーですか。」
「殺しすぎたから抑えろ、だそうだ。・・・・・・難儀なもんだよ、全く。」
そう言いながら蓮人は口元に苦笑を浮かべ、肩を竦めてみせた。内心、どう思っているのか、それを察しながら早川は確認する。
「たしか、近距離使用・・・・・・・でしたっけ?」
「槍とかの貫通力はたかが知れてる、『強化外骨格』は貫けんから安心しろ、だと。ったく、人を何だと思ってんだかな・・・・・・。」
「それは・・・・・・・。」
文句を言いたくなるのを堪えていたのだろう、呟く様に出された言葉に二人は何も言えなくなってしまう。それを知ってか知らずか、蓮人は言葉を続ける。
「政治家は自分がするんじゃないからって難問ばかりを言いやがる。別に俺らはゼロ距離で殴ってもいいが、新入りは慣れてないんだ。自衛官は道具じゃないってのに、ったく。・・・・・・・・あー、今のは。」
「はい、何でしょうか、一尉?・・・・・・・自分は何も聞いていませんが。・・・・・・士長もですよね?」
「そうだな。自分も何も聞こえていません。何か仰いましたか?」
愚痴をこぼしていると、そう思ったからだろうか、確認を取ろうと訊いてくる蓮人に、何も言わずに察した涼子は聞いていないと口にして、早川に確認を取る。
その確認に、早川も察したのか、涼子と同じく聞いていないと早川は答えた。二人の言葉を聞いて、蓮人はわざとらしく涙をぬぐう振りをしながら、
「良い部下を持ったもんだ。自慢の部下だよ、お前らは。」
「はっ。何のことか分かりかねますが、光栄であります。」
「光栄です、一尉。」
蓮人がぼそりと零した文句を涼子と早川の二人は聞かなかったことにする。
上司が零す苦言は確かに二人とも頷ける内容であるが、指揮官としての言葉ではない。聞かなかったことにするのが部下として普通のことであろう。
そうして蓮人が一、二口食器から口に運んでいると、黒い髪を後ろに束ねた女性が通りがかる。
「一尉!ここにいたんですか!!!」
「・・・・・・・三島曹長。・・・・・・・飯位ゆっくり食わせてくれないか?」
「ダメですよ。一尉の場合、食べたら食べたでどこ行くか、分かったものじゃありませんから。」
「・・・・・・・・・ひどい言われようだな。分かった、ちょっと待ってくれ。」
「三十秒で食べて下さい。」
「ひでぇ!!」
三十秒で食べてくれと髪を後ろに束ねた女性、三島が言う通りに蓮人は大急ぎで、食器の中身を口の中に掻き込み、あっという間に噛んで飲み、食器を空にする。
ガタッと勢い良く立ち上がると、食器を返し、三島の肩を持ち外へと向かって行った。
「早かったな、一尉。」
「えぇ。・・・・・・・曹長も鬼。少しくらいはいいのに。」
蓮人が席に着く前と同じ口調に戻った涼子を、早川は半眼でじとっと見つめる。
「なんです、士長?」
「・・・・・・・・・いや、なんでもない。」
「意見があれば聞く。」
「・・・・・・・・・・色々言いたいんだが、お前に言っても意味なさそうだな。」
「なにが、ですか、士長?」
早川の顔を不思議なものを見るような目で涼子は、早川を眺めつつ小首をかしげる。何も知らない者が涼子の動作を見れば、可憐な少女にも見えるかもしれないと早川は思ったが、それならどうしてこいつはここにいるんだろう?、と考えようとして目頭を押さえ思考を止める。たぶん訊いてみても無駄だろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
「それで、状況はどうか、曹長?」
「そうですね。まず、我々『強化武装特科』四十二名、『強化外骨格』の装着デバイスの点検は全員完了、いつでもいけます。96式装輸送装甲車が二両ですが、定員と装備に問題はありません。狙撃用の上部待機要員と
「・・・・・・・・・・少ないな。」
輸送用の装甲車、戦車、それら含め、十三両の戦闘車両。そして、『強化武装特科』、『普通科』、『特科』、それら歩兵を合わせ、七十二名。遠征にしては、どう考えても少なすぎることに蓮人はふと呟く。
その呟きに反応するように、三島が応える。
「遠征ですので、仕方ないかと。」
「遠征ねぇ・・・・・・・。戦車と装甲輸送車持っての遠征って、どこのバカだ。うまいこと言ったもんだぜ、・・・・・ったくよ。」
「国内はこの前のでピリピリしてますから。」
蓮人が零す苦言に三島は微笑みながら返す。
遠征という名の戦争、いや、反撃に行くというのに、公式に戦争と言えないのが少し変な気がするが、日本の、自衛隊そのもの在り方としては、遠征と言った方が都合が良いのだ。
異常だと思われても、これが、日本では普通なのだ。
「で、例のボルトアンカーは?」
「使う分には、特に問題ないかと思われます。」
「問題は?」
「接近時ですかね・・・・・・・・。せめて距離が取れれば問題ないと思われますが。一尉、前回の時には槍兵が多かったと聞きました。それは確かなので?」
「・・・・・・・・・確かに多かったな。」
この前の戦闘の情景を思い出してみる。
投擲されたものも、装備していたものも、槍が多かったと記憶している。
弓はどうだったか。飛んできたものの姿にはなかったと記憶しているが自信はない。
そうなると、今回使う様に言われているボルトアンカー、
それは高電圧を発生し、電気ショックを相手に与えるという非殺傷武器であるが、しかし、銃器があるにも関わらず、相手を生かせとの命令を上から聞いている。
この前は生きるのに少し躍起になっていた部分も確かにある。だが、涼子や早川、目の前にいる三島もまだ入隊したばかりの新兵だ。
彼女たちを生かすために、他者を殺さずに生かせというのは中々に難しいことではある。それが蓮人にとっては難しいモノだと思えてならない。
しかも、このボルトアンカー、使える範囲がほぼゼロ距離の近距離での使用を考えておられており、遠距離からの使用は考えらていないときた。相手の懐に入り込んでの使用とは、上は『強化外骨格』を一体何だと思っているのか。三分間のみでしか戦えない光の巨人のアイテムか、悪と戦う改造人間の変身道具だと思っているのか。
ふざけたものを言うモノだ、と蓮人は思う。
「となれば、使用は難しいと思うのですが。・・・・・・どうします?」
「・・・・・・・突っ込む突撃バカはいないからな。ま、近距離戦になったらその時に使う、でいいだろ。」
「よろしいので?」
「こっちは、上から、死ねとは言われてないからな。・・・・・良いだろうさ。」
「了解。伝えます。」
「頼む。・・・・・・・ま、前回よりかはマシだ。今回はこちらから反撃に出れる。それに偵察と施設が行ってる。問題ない。」
「施設というと、・・・・・・・・施設科ですか?」
「今頃は掘るのに飽きて首を長くして待ってることだろうさ。」
「それが仕事ではありますが・・・・・・・・・・。そうなると、確かに前回よりかは良さそうに聞こえますね。前回おらっしゃった一尉が仰るとなおさら、ですが。」
「はっ、言ってろ。」
三島の冗談に、蓮人は言葉を普通に返す。
腕に巻かれてある腕時計の時刻を確認する。
「いよいよか。」
戦いの時が迫っていた。
「『強化武装特科隊』、前へ!!!」
「行け、行け!!96
「90式、前に出ます!!」
「74式は後だ、後!!!10式は90式の次だ!!」
門の扉の前に、海外派遣部隊は慌ただしく動き出す。
装甲車の中にぎっしりと押し込められるように座っている『強化武装特科』の面々をはじめ、旧式扱いを受けている74式戦車とまだ現役扱いの90式、現役バリバリの10式戦車の内部では緊張した様子で座っている搭乗員たちが緊張した様子で顔を引き締めている。
まだ車両の中にいる分、『強化武装特科隊』の面々と戦車隊はマシなのかもしれない。そんな彼らと打って変わって車両の外にいる普通科と特科、合わせ歩兵三十名は緊張した面立ちでいる。
顔を引きつらせてはいないだけまだ良い方と言えるだろう。
『強化外骨格』を使えるとは言え、涼子や早川、三島の三人をはじめ、多くの隊員は今回が初めての実戦を迎えることになる。
門の向こう側がどうなっているのか。
先行した偵察小隊と施設作業小隊しか分からないのだ。連絡を取る手段はあるとは言っても知らないというのもあれではあるが。
少なくとも、こちらへの侵攻はあの時以来はない。であれば、何事もなく無事であると思えるのだが。
門の扉が開く。
まず、先行する形で96式装輸装甲車二両が前進する。そのあとを90式戦車五両が、10式戦車二両に続き、74式戦車四両が後に続く。その後を追う様に歩兵が続く。
徐々に明かりがなくなり、暗い闇が支配する空間を前に進む。
その暗闇を進んでいくと、道の先に光が現れ、明るくなっていく。
そして、あちらと同じような門をくぐり、こちら側に辿り着く。
「明るい・・・・・・・・・・・・。」
96式装輸装甲車の操縦席後方にある銃手席に座り、外側に上半身を出している涼子は異世界の明るい光景に目を細める。
時差はおそらくは十二時間前後といったところか。
腕時計代わりにしている腕のブレスレットに視線を向ける。時計の表示は大して変わっていない。表示されている時刻は、これから変わるかもしれないが。
64式7.62㎜狙撃銃のスコープから外を覗き込む。すると、そこには巨大な・・・・・・、まるで天高くそびえるほどの高い、高い・・・・・・・。
「木・・・・・・・・?」
涼子はぽつりと声を零す。脳裏に一瞬、こことは異なる何処か写した映像が、霞む。しかし、涼子は頭を抑えた途端に、その映像は消えた。
その事に疑問を持っていると、その声を聞いたわけでもなく、車内から蓮人の声が耳に届く。
『天高く・・・・・木が生えてるだとぉ!?バカ言うな。そんなにでかい木があるわけ・・・・・。』
『本当です、一尉!ファンタジーかってくらいでかい木が目の前にあるんです!まるで、そう。世界を貫いてるみたいに大きく!』
『世界を・・・・・・だと・・・・・・?そんな木があるわけ・・・・・・・・、いや、待てよ・・・・・・?そうか、その可能性もあるか。』
『一尉・・・・・・・・・?』
何かを考え込むように言う蓮人の声に引っ掛かりを覚えた涼子であったが、その事を気にする事もなく96式装輸装甲車は進んでいく。
「降車ぁー!!!」
「行け、行け!!!死にたいか!!!」
キキッと96式装輸装甲車二両から続々と『強化武装特科』の自衛官が降車する。
「整列!!・・・・・・・・・よし!!!一尉、『強化武装特科』小隊、揃いました!!」
「楽にしてくれ。」
「休め!!!」
蓮人の指示に三島は整列した『強化武装特科』小隊に指示を出す。ここで一番偉い上官は蓮人であり、小隊長も蓮人である。
そして、その次に偉いと言うなれば野崎や新田、斎藤あたりではあるが、特に指示を出すことも苦言を言うこともなかった。
「まずは、ごくろうと言いたい。よくまぁ、順調にここまで来れたものだとは思いたいが、問題はこれからだ。ここは日本ではない異界である。無理はするな。無茶もするな。・・・・・・・それと死ぬな。以上だ。」
蓮人は部下たちの顔をそれぞれ見ながら、言う。
実戦もしたことがない新入りがここにはいて、前回、童貞を捨てたとはいっても一回きりの実戦経験者である蓮人からは特に言うことがない。気を引き締めている者、やや恐怖を顔に出している者、それぞれが実戦がもうすぐ傍にあるということに緊張していると蓮人は見た。
一回きりの実戦を経て蓮人は、少し穏やかでいられているのかもしれない。
ふぅ、と息を吐き、
「解散!!」
部隊の解散を蓮人は言った。
それぞれが荷物を持ち、ぞろぞろと移動を始める。
その動きに倣って、蓮人も移動しようとするが、刹那、誰かが蓮人に寄ってきた。誰だ?、と蓮人はその人物を見る様に視線を向ける。
「新島一尉。よろしいでしょうか?」
「木原一士か。・・・・・・どうした?」
短く切られた白い髪を揺らしながら、新任の自衛官、
「先程、96式装輸装甲車で耳に挟んだのですが、一尉はあれがなにかを存じられている様子ですが、ご存じで?」
と涼子は天高く生えている樹木を指差して蓮人に問う。ここから距離は離れているだろうが、その様なことを意識できないほど大きな樹木がそこにはあった。
「おそらくだが、世界樹の可能性が高い。」
「世界樹・・・・・・ですか?」
「あぁ。おそらくだが、な。・・・・・・・・・・話しにくいんだが、いいか?」
「えぇ、どうぞ。」
蓮人は話をするべきか悩んで涼子に話し出す。
「多くの日本人が、オタクとか呼ばれてるのは知ってるか?」
「知ってます。」
「俺もそれなんだ、って言ったら引くか?」
「いえ。・・・・・・・・・それが?」
「あー・・・・・・・・いや。」
こいつ、すげぇな、と蓮人は涼子を尊敬の眼差しで見る。涼子本人は蓮人の眼差しを受けて恥ずかしかったが顔に出さない様に、出来る限り普段の表情をするようにと意識する。
「それで、なんだったか。あ~オタクの話だったな。・・・・・・・北欧神話とか聞いたことは?」
「小耳に挟んだ程度でしかありませんが。・・・・・・・それが?」
「その神話の中にな。ユグドラシルっていう、世界樹が出てくる。」
「まさか。」
「そのまさかだ。あれがユグドラシルとか言われるモノだったら、ちょいとまずい事態になってるケースが考えられなくもない。もしかすれば、もう巻き込まれているのかもしれんが。・・・・・・・その場合は。」
「・・・・・・その場合は?」
蓮人の言葉に涼子は息をのむ。
だが、蓮人が言う前に、誰かの蓮人を呼ぶ声が聞こえた。
「一尉ー!!!」
「ったく、問題か。すまんな、一士。」
「いえ、一尉が気になさることでは。」
「助かる。・・・・・・・・・・・どうした、曹長!!!」
呼ばれた声の方に蓮人は涼子を置いて向かっていく。
涼子は蓮人を追わずにただそこに立っていた。
「・・・・・・・・・一尉。貴方は一体・・・・・・・・・。いえ、その時は私が・・・・・・・・。・・・・・・・私が?」
何かを言おうとして涼子は言葉を詰まらせる。
だが、涼子は自身が何を言おうとしていたのか分からなかったし、分かる人間もいなかった。
「どうした、三島曹長。」
「ハッ!!それが・・・・・・。」
三島は困った様子で蓮人の疑問に答えようと返事をするが、言葉が出てこないのかのどに言葉を詰まらせる。
それを好機だと思ったのか三島の前にいた人物が蓮人に言う。
「あんたが『強化武装特科』小隊の隊長さんか?」
「
「先行偵察隊の
「よろしくです。」
自己紹介を終わらせ、鬼島との握手を蓮人は交わす。
鬼島は歴戦の勇士といった風貌をしており、蓮人の顔を見てにこやかに笑おうとするが、蓮人としては肝が冷える様に感じた。
「・・・・・・・・・それで?」
「ああ。最近はなかったんだが、そこまで来てる。
・・・・・・・って言っても何百ってもんじゃないな。千は越してるんじゃないか?ぱっと見た感じだと。」
「距離は?」
「十、・・・・・・・・いや、二十分くらいじゃないか?
「こっちはたった今着いたばかりです。それに、実戦もまだ。」
「処女と童貞ばっかってか。歩兵が聞いたら、怒られるぞ。」
「どっちが、・・・・・・・・・っていいか。どこで迎え撃ちます?」
「施設が良いとこ作ってくれてな。隠れるにゃ、うってつけの
「・・・・・・・・様子見で。」
「それがいい。」
蓮人の言葉に鬼島はニッと口の片側を上げて笑う。
蓮人は鬼島のその反応を返事として受け取った。
「静かだな・・・・・・・・。」
「えぇ。」
まだ陽があり、明るいというのにかなりの静けさがある。
アーズガルズに住む者にとっては闇の中にいるほどまでの静けさに覆われている。
つい一年程前であったであろうか。
異世界に、この世界とは異なる世界に先遣隊が旅立ってから早いモノでそれくらい経ってからであろうか。明らかに他の世界の人間だと分かる服装で何人かが話しかけられることがあった。
服装からは分からないが、その人物はおそらく人間であろうと予測は付けられてはいた。少なくとも話せるということは、この世界を襲う様にして現れるようになった化け物、ベルセルクと呼ぶようになった異形の怪物ではないのだが・・・・・・。
だが、先遣隊が返ってこないということはどういうことか、上層部は全く把握すること出来ない。だが、考えることはできた。
もしも。
もしも、先遣隊が破れ、侵略のために軍を送ってきたのであれば・・・・・・・・、
その時は、ただ迎え撃つのみ。
その反撃のために、多くの兵が集められた。百や二百といった数は比にはならないほどの多く、千近い兵が招集された。これほどの兵が破れれば、王国にベルセルクと戦う余力はなく、ただ帝国に従うのみであった。
帝国民は他国の民を人だとは思ってはいない。単なる奴隷かあるいはそれ以下か。
だが、不可解な点は多いのもまた事実である。
荒れているはずの、荒廃したはずの大地であるはずの門周辺はなぜか整地されているのが門まであと数キロといったところでよく見かけるようになる。世界そのものを食らおうとするベルセルクがいるならば整地などされているはずがない。それに、離れたところでは畑の様な水田も目に付くようになってくる。世界そのものを食らおうとするベルセルクが行うなどとは到底考えらないことだ。ベルセルクが田畑を耕すなどとは思えない。もし、そうであれば大地を荒らさずに守ろうとするであろう。
そう考えるのであれば、門付近を占拠する者たちは大地を生かそうと工夫しているといえるのではないだろうか。雑草の類など帝国の民は見たことがないだろうが、王国の人間ならば誰もが一度は見たことがあるはずである。故に、緑豊かに雑草が生え、緑の絨毯が敷かれているのを見て、懐かしいと思った王国民は少なからずいた。
では、門に送られた先遣隊はどうしたというのだ?
それより、この草原は一体・・・・・・・・?
王国の兵士たちは疑問に思いながら、進んでいく。
そうして、進んでいくと何かがあったのか、先頭を行く集団から悲鳴に似た大声があがる。
「なんだ!?」
「敵襲!!!!敵襲です!!!!!」
「なんだと!?どこに・・・・・・・・いや、後退だ!!!後退しろ!!!」
「後退ですか!?」
「そうだ!!!!」
「しかし、後退するまでに時間が・・・・・・・・・ッ!!!!」
「くっ、
千近くいる大御所となっている兵士たちを指揮するのも、起こりうる事態を考え手を尽くすのも難しいな、と指揮官は馬に跨りながら歯軋りする。
その時、遠くで銀に煌めく鋼鉄の何かが目に映ったような気がした。
「大御所だな・・・・・・・・。」
『偵察隊の鬼島一尉の報告では千近く入るとのことですが。・・・・・・・それを理解していてもそれより多いように思えますね。』
『一番槍、行けますか、一尉?』
一番槍を行けるかという声に蓮人は苦笑する。
「また、一番槍か。たまには他に譲るとするか。・・・・・・・野崎二尉。」
『いえいえ、自分では役不足かと。・・・・・・新田。』
『自分も右に同じく。・・・・・・斎藤。』
『そう言われても、役不足です。・・・・・・三島曹長。』
『自分に振りますか。・・・・・・早川士長。』
『自分にですか。・・・・・・・木原一士。』
『狙撃での援護ができませんが?』
行くとは言わずに、誰もが自分よりも階級が下の者に振ることに何処かコントのフリのようなものを感じながら、蓮人は言う。
「ったく、
『『『『『どうぞ、どうぞ。』』』』』
『・・・・・援護は任せて下さい、一尉。』
「お前ら、後で覚えておけよ?」
話を振っておいて言うのも変だが、蓮人は溜息を吐く。
今は、『強化外骨格零式』を装着していない素の姿である。通信は片耳に差してあるインカムを通じての通信である。連絡手段が取れていないのでは?、と不審に思ってはいたがなんとか通信の手段に関しては問題はなさそうだ。
通信基地を簡易的なものではあるが、門の中継基地から離れなければ、通信はこの様に問題なくとることが出来る。
涼子は離れたところから見ているだろう。彼女はあくまでも後衛である狙撃手だ。新任で後衛の狙撃手とは、かなり偉いと思われそうだが、涼子の狙撃の腕は小隊内でも確かなものだ。取りこぼしはしないだろうし、誤射することもないだろう。
信頼できる腕を持つ狙撃手が味方にいて、自分を守るために援護をする。実戦はまだではあるはずだが、信頼は出来るだろう。
こうしたやり取りができるとは、一年前であれば考えられなかったであろう。
蓮人は自身の腕に巻かれているホルダーに付いている三つのうち、赤い色をしたボタンを押す。
『チェンジ。レディ。』
「着装!!」
バチバチッ、と雷鳴が鳴るのと、自身の周囲に細かい部品が浮かぶのはほぼ同時であり、自身が着ていた迷彩服が銀色のライダースーツに変わるのは同時。浮かんだ部品が一つ、一つ、身体に付着する反動を利用し、身体を回す。その動作に応える様に部品が形を作っていく。下半身、腕、胴体と形作られ、最後に頭部に部品が付着する。
『
「ありがとよ。」
腕に巻かれているホルダーに蓮人は礼を言う。
その光景を見れば、おかしな人だなと思われそうではあるが、『強化武装特科』小隊に限っては普通の光景ともいえた。
『接敵!!!状況開始せよッ!!!』
「了解!!!・・・・・・・・・・さぁ~て、歓迎会と行こうか。手加減はしろよ?」
『・・・・・・・・・難しいですね。とは言っても努力はしますが。』
「・・・・・・・・ったく。」
面白い連中だ、と内心で独り言を言う蓮人であったが、敵との距離はかなり近い場所にいるのもまた事実である。やれやれ、と両手を上げたくなるが現状が現状である。
「仕方がないか・・・・・・・・。『レイ』、使用時間は?」
『五分強、六分弱と推測。銃器の使用を推薦。』
「銃器・・・・・・・・の使用ね・・・・・・・。それがなければ?」
『接近戦での交戦が確定。不安材料が大。非推奨。』
「・・・・・・・ってことは、火力支援がいるな・・・・・・・。三島、援護要請は?」
『要請でしたらすでに。・・・・・・やりますか?』
「突っ込もうにも敵が多すぎる。ボルトアンカーを使おうにもきついぞ。
・・・・・・・、バッテリーが持つとは限らんしな。」
『ですが、上からの指示では?』
「そうだ。・・・・・・・全く、難しいことしか言わなくて困ったものだ。」
『バッテリー交換を想定した場合、三十、四十分の戦闘が可能。』
三島とのやり取りを聞いていたのか、制御AIは正しい判断を蓮人に教える。
「・・・・・・素晴らしい判断をありがとうよ、『レイ』。」
『お気になさらず、マスター。』
嫌味を言ったつもりだが、このAIは感謝されたと判断したようだ。現代の科学力は高性能なAIも容易に作ることが出来ることに感心するがここまで高性能なAIはどうなのだろうかと蓮人は考える。
だが、そんなことを考えていても時間は止まることなく、常に過ぎていくものだ。敵の最前列が前線に踏み入れる光景が目に映る。
前線に踏み入れた以上、門に近づかれるのは必須。なれば、ただ守るのみだ。それが自衛官として、蓮人がここにいる最大の理由であり、自分たちをここに行けと命令された理由だ。
仕方がない・・・・・・・・か。
蓮人は力強く足を踏み込み、敵の最前列に突っ込んでいく。
「動く鎧だと!!!ベルセルクに違いない!!!」
「ベルセルクなものか!!!奴らは星を食らう化け物だぞ!!!」
「知るか、んなもん!!!」
異世界の民が話す言葉はこの前の戦闘で投降し、捕虜となった兵士が話す言葉をおおまかにではあるが、解読した教本として渡されてはいる。故に彼らが話す言葉はおおまかにでしかないが、蓮人は分かることが出来た。
ベルセルクが何を意味しているかまでは理解は出来なかったが。
ただ、彼らが蓮人の姿を見て驚いていることだけは理解はできる。
『ボルトアンカー、チャージ、コンプリート。アンロック。』
『レイ』の言葉を聞いた瞬間、彼らは蓮人の身体を貫かんと槍を構え、突こうとする。だが、それを見逃す
一発、二発、三発、
銃声が聞こえる。その銃声に合わせる様に蓮人の身体に迫っていた槍が三本撃ち抜かれる。何が起きたのか分からないというように敵は驚愕に満ちた大きく開いた瞳で蓮人を見る。当の蓮人は、やるじゃないの、と心の中で涼子を褒めていた。
槍が撃ち抜かれ、自身の得物がなくなったと撃ち抜かれた槍を敵は捨てる。その隙を逃がす蓮人ではなかった。懐が空いた一瞬の隙をついて、相手の胴に右の拳を当てる。
稲光が音を立てて、炸裂する。
当てた瞬間、相手の身体は大きく震え、大地に倒れる。その様子を見ずに蓮人は次の獲物に接近し、拳を打ち出す。
稲妻が再び音を立て、炸裂する。
二人目が一人目と同じく大地に倒れる光景に驚き、恐怖に満ちた顔で蓮人を見る。だが、ここは戦場である。躊躇していれば、死ぬのは気後れした者だ。蓮人はそれを自分に言い聞かせ、気を張っていた。『強化外骨格』という鎧を纏っていたとしても死ぬときは必ず訪れる。・・・・・・それがいつかは誰にも分からない、ただそれだけの話だ。
蓮人を貫かんと槍の穂先が蓮人を捉える。だが、蓮人の身体を貫く前に。
再び一発、
銃声が聞こえ、穂先が折れる。槍が折れれば、蓮人はただ懐に踏み込むのみ。その様子に、敵は怯えだす。
「魔法か!!!!」
「ベルセルクが魔法なぞ使うモノか!!!」
「じゃあ、アレはなんだ!!?」
「ルーンだ!!!きっとルーンの加護があるに違いない!!!!」
「ベルセルクがルーンを!!?ルーンは
「じゃあ、アレはなんだ!?ベルセルクでも
敵の兵士たちの恐怖に満ちた怒号が蓮人の耳に届く。
ベルセルクというのがなんであるのか全く分からないが、
世界樹に
『・・・・・・・・一尉っ!!!』
止まった蓮人の耳に声が聞こえる。その声から判断するに三島だと、そう判断し、蓮人は聞き返す。
「どうした、曹長!?」
『支援砲撃、来ます!!!!後退を!!!!』
「支援砲撃・・・・・・・・・ッ、了解!!後退する!!!」
三島の後退指示を聞いて、蓮人は後ろに下がろうと、身体を後ろに下げる。それを隙だと思ったのか、兵士たちは槍を突いてくる。だが、それを許す者がいるはずはなかった。
単発、そして連射、
連続して聞こえる銃声と共に穂先が吹き飛ぶ。穂先が蓮人の身体を捉える前に、吹き飛ぶという現象に兵士は、チッ、と舌打ちをする。その舌打ちが聞こえるか聞こえないか、その瞬間。
何かが飛来してて来る音が聞こえ、直後に炸裂した。
最前線から離れた後方で爆風が巻き起こる。その爆音を聞いて、最前列の兵士たちはなんだ!?と驚き後ろを振り返る。
そこには後ろに続くはずの兵士たちの焼けた肉の匂いと多くの血が流れたことを表すかのように赤い水溜りがあった。
「ひっ!!!!」
「なんだとっ!?」
「あの一瞬でかっ!?」
突然の出来事で兵士たちは口々に驚愕の言葉を出す。槍と剣が武器の文明じゃそうなるわな、と彼らを蓮人は気遣いながら、分かりやすいように彼らの言語で大きな声を出す。
「戦い、続ける、全員、ああなる。投降する、手は出さない。」
「何っ!?」
蓮人が言葉を話したことに、兵士たちは驚愕の言葉を再び出す。彼らの反応をまぁそうなるわな、と内心で思いながら、構えを解く。蓮人が戦う意思がないと分かると、兵士たちは怪しげなものを見る様に蓮人を見る。
「貴様は、ベルセルクではないのか・・・・・・・?」
「ベルセルク、違う。それに、ベルセルク、知らない。」
首を振りながら、蓮人は彼らに言う。だが、彼らは蓮人の言葉を信じられないというように不審に思っているようだった。
『一尉。・・・・・・
「・・・・・その方が良さそうな気がするな。」
『援護は出来ます。ですが、無事の保障は出来ません。』
「お前が言うなら出来ないんだろうさ、一士。・・・・・・・だが、物事には必要な時があるんだ。覚えといて損はないぞ?」
『了解。一尉の言葉なら覚えておきます。』
「援護頼むぞ、一士。・・・・・・・・・・・『レイ』。」
『レディ。』
やれやれ、と思いながら『レイ』に指示を出し、『変身』を蓮人は解く。『変身』を解かれて、中から人が現れたことに兵士たちは驚きの反応をする。
「人・・・・・・・だと・・・・・・・?」
「いや、人の姿をしているだけかもしれん。」
「だが・・・・・・、しかし・・・・・・・・。」
蓮人の姿に兵士たちはそれぞれの感想をもらす。
「戦う、しない。互いに、殺す、悪いこと。これ以上、何もしない。約束する。」
「・・・・・・・・・・・本当にか?」
「だが、貴様が手にかけたことは確かだろう!?」
そう兵士が怒りを露わにし、槍を構えるその姿にやっぱりか!!と蓮人は後悔する。瞬間的に、蓮人は装置の赤いスイッチを押す。
『チェンジ。レディ。』
「着装!!!」
「させるかぁ!!!!!」
蓮人の動作を察し、兵士は槍を躊躇することなく蓮人に向け突き刺してくる。
・・・・・・間に合うか!?
間に合うかどうか疑問に思った瞬間、
一発、
遠くで銃声が響く音が聞こえるのと同時に穂先が吹き飛ぶ。両足、両腕、胴体、頭が覆われて、蓮人の身体は『強化外骨格零式』を再び纏う。
「くっ、すまん、どじった!!援護頼む!!!」
『了解!!!一尉を救え!!!』
『
蓮人は謝罪の言葉を言うのと同時に、身を隠していた『強化武装特科』の部下たちは一斉に姿を現す。何もなかった平地に突然姿を現した四十名近くの『強化外骨格』が敵に襲い掛かる。
「くっ、どこにいたっ!!!」
「隠れていたとは・・・・・・・っ!!!」
「罠を張るとはな!!!!」
『強化外骨格』を纏った四十名近くの『強化武装特科』小隊に対し、兵士たちは隠れていたことを事前に察しられなかったことを後悔していると思える言葉をそれぞれ口にする。口にしながらも、立ち向かおうとする意志は砕かれてはいないようで槍を構え、迎え撃とうと列を進める。
長い戦いだな、と蓮人は拳を握り締めて、前に進みだす。
「・・・・・・・・・・それは誠か?」
「はっ、誠にございます。遠征軍は全滅。誰一人として戻ることはありませんでした。」
「・・・・・・・・・・分かった。もうよい。下がれ。」
「はっ。」
エルキミア王国。その王国の王城にて、斥候からの連絡をカロア・エルキミア国王は玉座にて、聞いていた。その国王の隣で、銀に煌めく長い髪を流す少女の面立ちを残す女性、セシル・エルキミアは国王である父、カロアを心配した口調で事を訊く。
「お父様・・・・・・?」
「あぁ、セシルか。・・・・・・・・聞いたか?」
「はい。遠征軍が・・・・・・・・・、全滅したとか・・・・・。」
「聞いていたか・・・・・・・。まったく、何たることか。残る戦力では帝国に劣るというのに。帝国はおろか、あの忌々しいベルセルクに立ち向かえるほどの戦力もない。神はどれほどの試練を我々にお与えになるというか。」
「そうですが、まだ人はおります。」
「戦力はないのだぞ?・・・・・・・・・残る戦力でどれほどもつか。」
「お父様・・・・・・・・。」
カロアが苦労に満ちた表情をすることにセシルは胸が痛くなる。人はベルセルクという悪に立ち向かうためにお互いに手を取り合うべきなのに、手を取り合おうとはせず、お互いを敵として見ている。
今は争い合うべきではないのにも関わらずに、だ。
セシルには何もできない。力は何一つ持たない単なる小娘でしかない。どうすればいいのか、セシルには何一つとして分からない。
その時、玉座に一人の男が現れる。
「父上。何やら、悩まれておられる様子。よろしければ、このハリス・エルキミアが力になりますぞ。」
「・・・・・・ハリス!!!帰ったか!!!」
悩んでいた表情が一変晴れやかな表情に変化する。
ハリス・エルキミア。このエルキミア王国の第一王子であり、王族の中では誰よりも力を理解しているセシルの兄であるこの男をセシルは家族であることを抜きにしてもどうも好きにはなれなかった。
今回の遠征軍の全滅の報もこの男が流したのではないか、とセシルは不意に感じてしまうほどには嫌いだと言えた。
「えぇ。帝国とは言え、あくまでも斥候。それほど手間取ることはありませんでした。今回は幸いにもベルセルクも出ては来ませんでしたし。不幸中の幸いとは正にこのこと。」
「そうか!!無事であったか!!!」
「聞くところによれば、留守にしている間、門の調査に遠征隊を派遣したとか。父上の顔色を伺いますに、・・・・・まさか全滅したわけでは?」
「・・・・・・・ぐっ。」
「なるほど。理解しました。なれば、私に案がございます。」
「案だとっ!?」
「えぇ。」
にたりと怪しい笑みを浮かべるハリスにセシルは不安を覚えた。
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