下僕
深夜、月明かりさえ霞む暗闇。
人々は寝静まり、虫の声だけが耳につく。
そんな中、妾は妾の下僕の集まる場所に歩みを進める。
日中は人間共の煩い笑い声に溢れている遊歩道の切れ目に、獣しか通れぬ脇道がある。
尤もこの脇道に迷い込む人間は数少ない。
最初に迷い込んだ人間は、狂わせて山向こうの壊れた小屋での生活を強制させた。
暫くして、別の人間共に見つけられたが、まぁ良い。
今はまだ、妾の存在を知られたくはない故に大事にはしたくない。
人の姿で獣道を歩く。
ガサガサガサ
草や木が揺れ、影が現れる。
──九尾様。どうなされましたか?
現れたのは妾の下僕。
昔は妾の下僕もかなり居たが、今は数える程しかおらぬ。
「貴様等に釘を刺しに来たのだ。妾が完全に復活するまでは動く事はまかり成らぬと申した筈だが?」
人型の変化を解きそうになる程に口を開く妾。若干だが牙も見えているであろう。
──申し訳ありませぬ。この道に迷い込んで来た人間のみ追い出していた筈でしたが…
妾は下僕共に命令した点は二つ。
道に迷って来た人間は追い出す。決して姿は現さず。
しかし、この頃下僕共は調子に乗り、段々と人間を惑わす、もしくは痛め付けるようになって来た。
「妾の命令を聞けぬならば、命を以て償って貰う事になるがの」
ザワザワと揺れ動いていた草や木が止まる。
──九尾様…未だにお力が完全でないのは解りますが…何故そこまで慎重なのです?20年も人型のままで留まっておられる事といい…貴女様ならば、今のお力でも充分人間共を殲滅出来るではありませぬか?
妾に意見を述べておる下僕。人間には
己の強さに自信があり、妾に挑んで敗れ、妾の下に付いた妖の一匹だ。
「妾は見張られておるからだ。現にあやつの弟子が此方に来てしまったではないか?」
そうなのだ。
妾は以前、一度だけ復活を果たした事がある。
それを再び封印しようとした女…水谷と言ったか。妾はそやつに見張られておるのだ。
恐らく、弟子が呼ばれたのは偶然ではない。
あの女が女将に進言し、弟子を向かわせるように細工したのだ。
あの時、妾の力は確かに完全では無かった。
しかし妾には自信があった。この程度でも充分だと言う自信が。
だが、あの女は妾を一度封じる事に成功したのだ。
「あの時は女も未熟だった故に辛くも逃げ出す事ができたのだが、今は女もなかなかの力よ。妾は同じ轍は踏まぬ。妾の邪魔をするなれば、即刻命を断ち切って進ぜようぞ…?」
人型に変化していながらも、妾は興奮すると、耳が立ち、尾が現れてくる。
怒気は場にいる下僕の妖共を震え上がらせた。
──九尾様…落ち着きなされ…
──騒ぎを起こした輩は、我等が諌めておきましょう
古くから妾を知っておる妖は妾には逆らえぬが、近年産まれた妖は妾を噂でしか知らぬ。
一度妾の力を見せるのも一興だが、ここはきゃつ等に任せようか。
妾は踵を返し、下僕共の
途中振り返り、妾に敵意を向ける妖共を微笑しながら言ってやる。
「気に入らなくば向かって来ても構わぬのだぞ?恐れを知らぬ無知なる者よ」
敵意が増えるが気にはせぬ。
妾は孤高。
妖の世界で並ぶ者なといない、獣の王なのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
旅館の朝飯は何故こんなに美味いのだろうか。
いつもより早起きしてまでも食ってしまうこの魅力!!
朝からご飯二杯は食えるぜ。
まぁ、二杯は結構普通だが。
ところで今日は神崎と旅館周りを調査する予定だ。
金毛九尾狐ってヤツが敵だとして、ヤツの塒を探さなければ話にならん。
そこにはすげー数の化け者ってか妖怪がいるそうだが、まぁ、特に問題は無い。向かって来たら、ぶっ叩くだけだ。
ところで、妖怪ってのは、今で言う都市伝説みたいな類らしい。
昔の人が見たと錯覚した物や、感じた不快感を他の人に話す。
んで、聞いた奴が、そーいえば俺も、とか思って他の人に話す。
そんな連鎖がグルグル周り、何時しか妖怪の仕業となる。
んで、その念が段々姿を象り、いつしか本物となるらしい。
口裂け女も人面犬も似たようなもんで、そいつ等は新しい妖怪ってな訳だ。
脳内の恐怖が具現化するなんて、少し面白い。
まぁ、何だかんだ言っても、やはり人間が一番怖い存在なのには間違いはないが。
んで、妖怪も古いヤツ程強いらしい。
永きに渡って念を吸収し、今も存在し続けて怖がられる奴が強い、と。
人間が作り出し、その恐れを糧とし生きるのが妖。
人間が居なければ、存在する事も生きる事も出来ないと。
だから時折、悪戯をして存在をアピールする、と。
昔からいる奴は本やテレビで知っているから、今更そんな事をする必要は無い。
まぁ、色々グダグダ言ったが、要は九尾の狐ってヤツは別格な訳だ。
日本だけじゃなく、アジア全域に知られているんだからな。
「北嶋さん。そろそろ行こう?」
朝飯を食いながらグダグダ解説していた俺の横から神崎が肩をポンと叩く。
「早いなぁ。お茶くらい…」
茶を口に運ばせると同時に神崎が隣に座る。
「…な、何?」
ジーッと見られている俺…その熱い眼差しが胸を打つぜ!!
って違う!違う俺!!
神崎は俺を観察するような鋭い目つきで俺を見ているのだ。
何にも悪い事をしていないが、なんかビビるぞ。いきなりぶん殴ったりはしないよな?
「…やっぱり何も憑いていないわね…北嶋さんに憑ける訳ないもんね…」
神崎が視線を外すと同時に溜め息をつく。
ぶん殴ろうとした訳じゃなくて良かったと思う反面、何故そんな事を思ったのかが疑問だ。
「俺が憑かれた?何故そう思う?」
「昨日のアレはやり過ぎよ北嶋さん。頭撫でたり、可愛いって騒いだり」
またおかしな事を言う神崎。
全く以て意味が解らない。
「そりゃこの旅館のモンだから、勝手にって言われたら返す言葉も無いが、頭くらい撫でてもいいだろ?旅館側も看板にしているみたいだしさ?」
「看板?ああ、看板娘か。だから、あんな節操無くしたら駄目でしょ!!常識よ!!そうじゃなくても 私達はここに仕事で来ているのよ!?信用ガタ落ちになるわ!!」
頭を撫でたくらいで信用落ちるもんなのか?
そういや、他の客も、遊歩道の連中も遠巻きに見ているだけで寄って来なかったな。もしかしたら、大変なヤツなのかもしれない。
「解った。頭は撫でない。信用落ちるよりマシだ」
途端にご機嫌が良くなる神崎。
「よしよし!!解ってくれたのね!!行こ、後でお団子奢ってあげる!!」
俺の腕をグイグイ引っ張る神崎。
お茶を零しそうで多少焦ったが、団子よりカステラとかどら焼きがいいなぁ、とか思いながらも、俺は神崎にそのまま引き摺られて行った。
そんで道中、神崎が集中して『視ながら』歩いている訳だが、俺はハッキリ言って暇だ。
ただ神崎の後を付いて行くだけ。
あれだ。例えるならばカルガモのヒヨコだ。
親鳥の後ろをピョコピョコ付いていくヒヨコだ。
パン屑でも貰いそうな勢いで神崎の後を付いて歩く様は、何故か悲しい。
ピタッと神崎が止まる。
そこはお茶屋だ。成程、休憩しようと言う魂胆か。団子奢ってくれると言っていたし。
俺がお茶屋にいそいそと入ろうとしたその時、神崎が後ろの襟首を掴む。
「ぐえっ!!」
思い切り喉を圧迫されて『ぐえっ』とか言う俺。
「き、休憩じゃないのか?」
首を押さえながら神崎を見ると、スケッチブックにスラスラと絵を描いている。
「んん?何だこいつ?マントなんか羽織ってよ?」
「赤マントね。狙っているわ」
神崎が指差す方向に、旅館の看板がいた。
「あいつを狙っている?」
「そうよ。ヤバいわ。北嶋さん急いでって…」
神崎の号令が終わる前に、俺は既にその場に到着していた。
あいつが狙われているのなら助けなきゃいけない。妖怪に狙われているなんて普通に可哀想だしな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「…何用じゃ?」
妾の前に最近の妖、赤マントが笑いながら立っている。
赤マントは今から70年前程に現れた妖。
「赤いマント着せましょうか?青いマント着せましょうか?」と人間に問い、赤いマントを選ぶと斬殺し、血の赤で『赤いマント』を着せ、青いマントを選ぶと、吸血し、真っ青にし、『青いマント』を着せる。
まぁ、ほんに大した事の無い妖だ。
「何用じゃと問うておる。」
妾に反逆する様子だが、妾ならば瞬殺できる。この場の人間に気付かれないように。
──赤いマント着せましょうか?青いマント着せましょうか?
薄ら笑いをし、妾に一歩近付いてきた。
「ふん。全く若い妖は…」
己の力を過信したのか、ただの挑戦かは解らぬ。解ってやる義理も無し。
向かって来たのならただ殺すだけ。
妾がほんの少しだけ、力を解放しようとしたその時、背後から妾を…いや、赤マントを見ている視線を感じた。
その気配、旅館の依頼でやってきた水谷の弟子の気配。
妾は奥歯を噛んだ。
目の前の雑魚を葬るは容易い。
しかし、今はまだ正体を明かす時では無い。
妾は現在、二つの変化を使っている。
一つは旅館の看板娘、玉諏佐 美優。
もう一つは妖の前に出る時の白面金毛九尾狐。
目の前の雑魚は、白面金毛九尾狐の妾を知っておらぬ。
妾は20年間 ほぼ人型の変化を解いておらぬからだ。
それでも稀に、白面金毛九尾狐に戻る時もある。古い妖は、やはりあの姿でないと束ねられぬからだ。
やはり一度、全ての者に白面金毛九尾狐に戻った妾の姿を見せておくべきだったか。
然すればこんな馬鹿者は現れなかっただろうに。
まあ…今更悔やんでも致し方ない。あの女に目の前の雑魚を倒して貰うしかあるまい。
そう決めた妾の目の前に現れたのは水谷の弟子の女ではなく、恐れ多くも妾の頭を撫でた男だった!!
「えっ?えっ?え~っ?」
人型の姿で驚いてみせる妾を無視し、男が赤マントの居る位置を微妙に外した所を睨んでいる。
「どこだ神崎?」
男は真正面に居る赤マントに気付いておらぬように、首を左右に振りながらキョロキョロと見ている。
「あ、あの…真正面ですけど…」
たまらず声をかける妾だが、男に届いておらぬのか、未だ辺りを見ている。
「真正面!!二歩前!!」
女の声を合図とし、男が二歩前に進む。
──赤いマント着せましょうか?青いマンごはああああ!?
薄ら笑いを浮かべながら男に問うている最中、男の右拳が顔にめり込んだ。
「こ、これは一体…」
半歩程引いた妾の肩を、包み込むように優しく抱く女。
「大丈夫でしたか?」
「え、ええ…あ、あの方は一体…?」
女は妾から視線を外し、男の後ろ姿を見て微笑む。
「あの人は北嶋 勇…至上最強の霊能者です。と、言っても、霊や妖の姿は見えないし、声も聞こえない。気配すらも感じていませんけどね」
見えない?聞こえない?感じない?
それなのに触れる…いや、殴れるのか!?
あのパンチには何の霊力も加護も感じなかったのに?
そんな馬鹿な訳があるまい!!
妾は動揺しながらも、演技を見破られぬよう、震えた。
「神崎、こいつはどーすんだ?」
男が次の指示は何だ?と言わんばかりに妾達の前に背中を向けて立ちながら、赤マントが倒れている辺りを見据えている。
「闇の住人は闇に帰すのよ」
男がゆっくり頷くと、右手に刀が突如現る!!
「っく!!」
思わず変化を解きそうになる神気!!あのような神気を放つ刀など、妾は知らぬ!!
男が鞘から刀を抜く。
現れた刀身は、鞘に収められた時よりも神気を発した!!
全身の毛が逆立つ…
あれは妾の命に届く刀だ!!
「北嶋さん!草薙で斬り捨てて!」
女が叫んだ言葉を訊き、血の気が引く気がした。
草薙!!
皇刀草薙か!!
主が望む物を全て斬る刀。鉄でも、水でも、無論闇の住人ですらも。
刀の神として敬われ、畏れられ、誇り高き神刀として知られておるが、その分誰にでも扱える代物では無い筈!!
永き歴史上、所有者は右手の指だけで事足りる。
そんな業物…いや、神具を持っているのか!?あの見えぬ、聞こえぬ、感じぬ男が!!
目の前の男が振り翳す。
草薙が赤マントに掠った。
そう、致命傷にはならない、ただ掠っただけだ。
なのに!!
──グハアァアァアァアアアアア!!!
掠り傷の赤マントが地べたに転がり、苦しみのた打ち回った!!
斬られた箇所から、赤マントの身体が黒い霧となり、崩壊していく!!
「北嶋さん、本気で滅するつもりなんだわ」
女が満足そうに頷く。
それはそうだ。本気で倒すつもりはあるだろう。
問題は、掠り傷で滅すると言う事。
聞こうかどうか迷ったが、先に女の口から意味を発した。
「北嶋さんが本気で滅するつもりだから草薙はそれに反応しただけなんです。あ、草薙ってのは、北嶋さんが持っている刀の事ですね。もし、北嶋さんが殺すなと願えば草薙は滅する事はしませんし」
あの男の意思一つで、あの草薙がそれに応じるというのか!!
それは、草薙を完全に御していると言う事を意味する!!
草薙の歴史上、それ程御している輩はおらぬ筈!!
妾は震える身体を押さえ込むのが精一杯な状態だった!!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
草薙の反応が止まった。
つまりは、あのヘンテコマントを斬り捨てたって訳だ。
草薙を鞘に収める。
神崎が満足そうに頷いている。
神崎の傍らに旅館の看板が小さくなって固まっている。
怖かったのかは解らないが、やっぱり可愛い。
抱き締めたくなるような衝動に駆られるが、そこは我慢しなければならない。信用問題になるらしいからな。
「さて、どうする?また探すか?それとも休憩?」
「そうね。ちょうどお茶屋さんの傍だしね。休憩しましょうか。玉諏佐さんもどうぞ…って、あれ?」
看板はいそいそと旅館に帰って行く。
「玉諏佐さんには刺激強過ぎたみたいね」
「玉諏佐?カッコいい名前だなぁ」
やはりなかなかの奴らしいな。そんないい名前を付けるって事は。
「まぁ、ビビったんなら仕方ない。お茶飲もう神崎」
俺は神崎を引っ張って、お茶屋に入店した。
みたらし団子と抹茶を戴き、暫しマッタリした時間を過ごした。
夕方となり、そろそろ旅館に帰らなければならない時間となった。それまで斬った妖は8匹。
「みんな新しい妖ね。金毛九尾狐の配下にしては脆い…」
んじゃ、神崎がやれよ。とか思ったが、口には出せん。出したら拳が出るかもだし。
基本平和主義者の俺は、殴られるのを良しとはしない。
だが、俺は神崎の攻撃は確実に喰らう。
俺には神崎に絶対に勝てない理由がある。
っても言わないよ?神崎的にまだらしいから、俺だけ言っても仕方がないしな。
「取り敢えず帰りましょう。なんとなくだけど、尻尾は掴んだわ」
「そりゃ敵は狐だから、尻尾くらい掴めるだろ?」
「そうじゃなくて!…まぁいいわ。説明が面倒だわ。後で辞典調べたら?」
神崎は呆れ顔で俺の前をスタスタ歩いた。
つか辞典で調べろって、小学生のお母さんか!!
調べなきゃ身に付きませんよっ!ってヤツかよ!!
俺はブツクサ言いながらも、神崎の後をカルガモのヒナのようについて歩いた。
そんで過剰過密労働から逃れて晩飯を戴き、部屋でマッタリとしている俺。
そんな時に「北嶋さん、入るわよ」と、言いながら既に入ってくる。
「まぁ、いいけどさ。何か違うくね?」
ノックするとか、襖の向こうから声を掛けるとかあるだろ?
「固い事言わない言わない」
缶ビールを一本、ヒョイと俺に投げ渡す。
「なんかサービスいいな?」
プシュッとプルトップを開ける。
「今日、妖を倒したじゃない?奴等は遊歩道の方から歩いて来たよね?」
唐突に話を切り出されてもだ。俺は絵を見て方向指示されて斬っただけだから解る訳がない。
その旨を伝えようとすると…
「あ、どうせ北嶋さんには解らないだろうから、別にいいのよ。適当に相槌打ってくれれば」
と、両手をパタパタと左右に振り出す。
確かに解らないが、ものすごぉく釈然としない。
「でね、遊歩道の方に少しだけ空間に歪みがある場所を見つけた訳なのよ」
俺は言われた通りに適当に相槌を打って、聞いている振りをした。
ビールの泡を片付けるのを忘れる事もなく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──これはお珍しい…まだ時間がお早いではありませんか?
巣に来た妾の前に平伏する下僕共。
「まだ丑の刻には早いがの。伝えなければならぬ事があって参った」
妾の許可無く面を上げた近年の妖。
妾はそやつの首を問答無用で、尾で刎ねた。
近年の妖の身体が自ら血で雨を降らせ、辺りを湿らせる。
──御乱心を!!
下僕共が一斉にざわめくのを怒気で制する。
大人しくなった所で、妾は話の続きを始めた。
「今日、妾に刃向かい、霊能者に殺された新しい妖がおる」
再びざわめく下僕共。
「妾の恐ろしさを知らぬ若い妖よ。最早妾はお主等を引き止めはせぬ。これからは己の欲に忠実に、自由に殺すがよい」
怒気を収めた妾。巣から外に出る道から身を躱し、外に出てよいと暗示する。
──そうかい?じゃあ遠慮なく
妾の思った通り、近年の妖は全て巣を離れて行く。
「これで終いかえ?」
残った古くから在る妖に目を向ける。
──九尾よ…お主何を企んでおる?
言葉を発したのは、妾と同じ、古より人間共から畏れられている大妖、大百足だった。
「見た通りだが?お主も出たかったら出るが良い。妾は止めはせぬ。裏切りとして殺しもせぬ」
妾は再び道を作る。
──ふん。何を企んでおるか知らぬが、元々俺はお前より下だとは思っておらん。喜んで出て行かせて貰おうか
大百足もその巨躯を窮屈そうに折り曲げて出て行く。
「ああ、妾が潜伏しておる旅館に居る男の霊能者…お主では太刀打ち出来ぬから、関わらずに去るが良いぞ」
大百足の歩みが止まる。
──そいつの名は何と言う?
明らかに自尊心を挫かれた表情をしておる。
「北嶋 勇…その名を聞いたらば逃げ出すが良いぞ?」
──覚えておくわ!!
吐き捨てるように言い、大百足は出て行った。
巣の入り口を閉じ、奥の玉座へ歩き、座り、場を眺める。
「それでも妾を知っておる妖は全員残ったか」
巣の中を一気に膨張し、巣から城へと変化させる。
──隠れ蓑を真のお姿にさせるとは…
──それに大百足まで…きゃつを仲間に引き入れたのは骨でした筈
残った下僕共がざわめく。
「巣を真の姿にしたのはこれから起きる戦いの為よ。大百足は惜しいが、うまく行けば大百足で終わるやもしれぬ」
──これから起きる戦い!?
──九尾様!!お力が完全になってから動く筈では!?
──うまく行けば終わるとは!うっ!!
騒ぎ出す下僕共を、怒気を孕んだ視線で黙らせる。
「先程申した北嶋 勇…それに女…潜伏していたのが大百足だと思ってくれればそれで良し。騙し切れぬならば、腹を決めて戦うのみ。これは妾の決意じゃ」
下僕共を見据えながら静かに語る妾。
いきなり狐、それも大妖の妾の気配を察した水谷の弟子の女。
それに、草薙を事も無げに扱う北嶋 勇。
完全ではないにせよ、今の妾には屈強の下僕共が沢山おる。水谷の時よりも力は回復しておる。時期尚早だが、今が動く時と腹を決める。
勿論、大百足で欺けるのならば、それに越した事はない。
今宵、奴等が動くであろう。妾もそれに対応するだけだ。
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