飯田橋の坂、今昔
小道けいな
飯田橋の坂、今昔
私を雇ってくれた会社は飯田橋にあった。今はその場所にはない。
私が勤めていたころは観光地にはなっていなかった。古い旅館がいくつもあり、まだ旅館として生きていた。少ししてから、旅館が廃業になり、飲食店になり、今は消えている……と言うところもある。
――バブルの崩壊の余波なのかな……遅いけれど、経済の停滞、変化。
勤めていたころでも話題はある町だった。どこそこのお菓子はドラマでなんとかが食べていたんだって……情報に疎い私が初めてその店を知り行ってみたいと思った。
当時の時給で甘味が吹っ飛ぶという私事もあるが、話題だったために行列ができているのが常だった時期もある。
――おいしそうだなぁ。最近、こういったの食べてないや。
まだ抹茶スイーツと私が出会う前。出会うきっかけになったのはその店なはず。
その会社のアルバイトをやめ、次に向かった後、余裕ができてまた飯田橋に戻った。このときは町の探索者として。
話題になっていた抹茶ババロアを並ばずに食べた。
歩き回って別の店も見つけた。隠れ家的というのか、少し離れ、神楽坂の方にある甘味処。おばあさんが経営し、料理をする、まるでおばあちゃんちに行ったようなゆったりとした時間が流れていた。
また、駅ビルの変化も大きかった。
勤めていたときにお世話になった飲食店……お世話になったというのも私の一方的な愛を注ぐ対象だっただけだけどがなくなったり、移動したり。
――ああ、町は変わっていく。私が知っていた雰囲気は亡くなった。
勤めている間にも支店も多かった本屋が閉店していった。それにビルごと本屋も消えた。
あの本屋の思い出はカバーだろう。今では私はカバー不要と言うが、あの本屋の漫画売り場の店員さんのカバー付けてさばきはまた見てみたい。折るだけではなく、切って折り込み外れないようにするのがその本屋の流儀。その手さばきが早かったのだ。
――昭和が終わった……まー、あのころどっちも平成だけどね。
大げさだけど、その言葉がしっくりくる。
あの変わり方は時代が変わるというのを思い起こさせるだけ、大きいと思う。
悪いことだけではなく良いこともある。
雑多すぎて分からなかったところがきれいに整備された。あ、でも、工事中見て「あ、あの雑多さがなくなる」と思った気もしなくはない。
アスファルトではない石畳の細い路地が飯田橋の路地の素敵なところだと思う。滑りやすいかなとか維持が大変かなとかそういう住民視点は排除して、見た目でいえば趣がそこに生じるのだ。
――町の変化は生き延びるため。チェーン店が増えるのは味気ないかもしれないが、人が消えていくのはつらく寂しい。
フィルムのカメラを購入した後、一本分飯田橋の路地を取りまくっていた。それだけでなく結構行くたびに撮っていた。
デジタルカメラになってからも行ったら撮っていた。
同じ構図、同じ雰囲気。
でも、どこか変化していっている。
古いものも重要。
でも変化しないと窒息して消えてしまうかもしれない。
その割合が問題であり、重要なのかな……。
さて、近々出かけてこようか?
あのお茶屋さんが店先で焙煎する匂いに出会えるかな?
飯田橋の坂、今昔 小道けいな @konokomichi
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