第2章-09 ディメンション・トリガー

 その日、いつものようにマンションを訪ねると室内にロンドの姿がない。


「あれ……留守かな?」

 ぼくはあたりをきょろきょろと見渡した。寝室のベッドは寝た形跡があるがシーツはめくれており、当人の姿はない。

 病院にでも行ったのかなと考えたところでぼくはつと隣室の応接間らしき部屋のソファーに腰掛けているピンクのガウン姿が見えた。

「ロンド。こんなところでなにして……」

 といったところでぼくはふと違和感を憶えた。見るとそれはロンドが大事にしている等身大のテディベアではないか。


 その瞬間、反対側の四人がけのソファーの影から突然迷彩模様のヘルメットをかぶったロンドが現れるや、はげしい銃撃音が鳴った。


「ばんばーん」


「うわーっ」


 ばた。

 ぼくはその場にこてんと倒れると、やられたふりをした。


「ふっ。またつまらぬものを撃ってしまった」

「つまらなくて悪かったな」


 ぼくはむくりと起き上がると、文句を言った。


「あら駄目よ! ログは撃たれたんだからちゃんとひっくり返っていないと」

「つーかなんだよ。これは」

「へへー。いいでしょ、これ。ネット通販で買ったの。タクティカル・ベストと六四式小銃」

「……んなもんパジャマの上に装備するなよ」

「だって最近運動不足なんだもん。ゲームだけじゃなくって、たまには体を動かさないとね」

「ほら、いいからさっさとベッドに戻れ。息上がってるじゃねーか」

「ちぇっ」


 ぼくにうながされ、凄腕のスナイパーはフリッツヘルメットをかぶったままおとなしくお布団の中に潜り込んだが、アクティヴな病人という不思議なカテゴリーがあるとすれば、ロンドはまさにそうだった。この子は「退屈」という言葉をひどく恐れるように、毎日なにかしら好奇心の種を見つけてきてはそれに熱中していた。

 ゲーム、ホビー、おもちゃ……。実はけっこうインドア派の素質があるのかロンドはかなりのガジェット好きで、自由に買い物に行けないうさを晴らすようにネットショッピングをしまくっており、ぼくは毎日大量に送り届けられる○mazonの箱を彼女の部屋で見かけた。

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