第2章-08 ディメンション・トリガー

 こんな風にしてぼくらは友達になった。


 ぼくはがぜん毎日が楽しくなった。そして夜になるとあのマンションの最上階にある彼女の部屋を訪れ、窓をノックし、夜更けまでの時間をそこですごした。灰色の日々は唐突に終わりを告げた。


 ロンドは病気だった。


 聞くところによれば、心臓の弁の機能だかに生まれつき欠陥があり、もう長いこと煩っているらしかった。詳しい説明はぼくにはよくわからなかったけれど、それがたいへんにむずかしい病気であること、治癒を決して楽観視できるような病気ではないことだけは理解できた。


 だがそんな重い病気にかかっているにもかかわらず、彼女はいつも明るく元気だった。それももうかれこれ三年も病室に閉じ込められていながらロンドは常に好奇心いっぱいで、心を弾ませながら外のことをあれこれいろいろ知りたがった。


 そんなわけでぼくは彼女にたくさんの話をした。話題はべつに何でもよかった。自分のこと、家族のこと、重力を操るこの力についてもぼくはすべてを打ち明けた。力を使いこなすためにいっぱい練習したこと。ちょっと前まで中二病全開の痛い奴だったこと。このことは家族にすら内緒にしていること……。『グラビティ・ストリーム』や『ディメンション・トリガー』など、もはや黒歴史どころか黒神話と化していた技や設定のあれこれについて彼女はわくわく顔で聞き入り、目を輝かせ、そして腹を抱えて笑った。


「あはははっ。なあに。その、『ジャッジメント・デイ』って」

「う、うるさいな。とっておきの最終奥義なんだよ」

「さいしゅうおうぎって、なにがおこるの?」

「だ、だから、すごいことが起きるんだよ」


 まさか名前以外何も考えてないとは言えず、ぼくは赤くなった。

 こうして友達となったぼくらだったが、もっともロンドはいわゆる世間一般で言う薄幸の美少女というのとはかなりちがっていた。


 ある日のことだ。

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