第2章-02 ディメンション・トリガー

 むろん日々の訓練に対しても怠ることはなく、その結果、ぼくは重力を操る腕前に関してはかなりの実力を持つまでになっていた。自分比率でも小学生の頃に比べて何倍もパワーアップをしていたと思う。実際、現在のぼくの『重力使い』としての能力はこの頃に多くを負っている。能力者としての体力や自分の特性を有効活用するためのアイデア、一方自分の能力の限界を冷静に見定める視点など、のちに必要になるものすべてをぼくはこの時期に習得した。


 仮にだけど、もしぼくがSWATやCIAにスカウトされていたらけっこう優秀な秘密諜報部員や特殊工作員になれたと思う。なにせ一晩壁に貼り付いたり天井を歩いたりするなんてぼくには朝飯前だったからだ。イーサン・ハントやジェームズ・ボンドくらいにはなれたと思う。ジョン・マクレーンは無理だとしても。


 むろんアニメもあいかわらず見ており、こちらの方はもう完全に引き返せない領域に達していた。その痛さは留まるところを知らず、中学二年に進級した頃には、ぼくは怪我もしてないのに左手の前腕部から手の甲にかけてを包帯でぐるぐる巻きにして登校し、それがクラスメイトに怪しまれるようになると今度は左手にだけレザー素材の指切りグローブをはめるようになった。むろん、この力をふだん暴走させないようにするための「封印」(という設定)である。


こういうことを当時のぼくがどういうつもりでやっていたのか、もう思い出せない。ただ今ふり返って思えば、きっとぼくは必死だったのだろう。あたかも物語の主人公と見なすことで、この、物心ついたときから自分に貼り付いているわけのわからない能力になんとか意味や落としどころを見つけようとしていたにちがいない。


 自分がこの力を得たのはなにか大きなことをするためなのだ。いつの日か、きっとこの力を振るう時がくる。そのときぼくは危機に陥ったクラスメイトを救ったり、自衛隊も手に負えないような災害現場で活躍したり、誰もが認める悪党を退治したりしてみんなに認められる……。それはワクワクする未来であり、ぼくがひそかに胸に秘めた希望でもあった。


 そのためにはもっと強くならないと。

 いつか来たる日のために。


 さあ、いくぜ、相棒。

 ディメンション・トリガー。



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