第2章-01 ディメンション・トリガー
中学に上がると、ぼくの超能力熱はいっそう高まった。
ちょうどこの頃ぼくは成長期に突入しており、ぐんぐん伸びる背丈と共にこの能力にますます磨きをかけていたが、ちょうど同じ頃、超能力と同じくらいはまったのがいわゆるマンガやアニメと言ったエンターテインメントだった。
思えばこの頃になってぼくはようやく自分のこの生まれ持った能力がいかに凄いものであるか気づき始めていたのだろう。そしてその力を確認するためのかっこうの「お手本」として、映画やアニメを熱心に見るようになっていた。
SF、アクション、ファンタジー、近未来ものに学園もの……様々なジャンルや作品の中で華やかに活躍するキャラクターたちをぼくは熱心に追いかけた。彼らはいつも輝いており、ぼくはそんな彼らに親近感とあこがれを抱いた。だって、彼らは生まれついた素質や特質を縦横無尽に使い、それに少しも引け目を感じたり、劣等感を持っていたりしなかったからだ。
「いいなあ」
ぼくはうっとりとため息をついた。そして自分ももっと能力を鍛えたら、こんないい目にあえるかもしれない……と考えた。そう、ここにきてぼくは生まれて初めて自分のこの力を「長所」として捉えるようになっていたのである。
そんなわけでぼくは夜になるとスニーカーを履いて、夜の町へ繰り出すようになった。といっても繁華街を目指すわけではない。ぼくの目的は地上ではなく、そこから空にむかって縦に伸びる巨大なビル群にあった。
大小様々に乱立するビルは、ぼくにとっての格好の修行場所になった。ぼくはジーンズにフード付きのパーカー、目深に被ったニット帽といういでたちに身を固めると、黙々とトレーニングに励んだ。ハリウッド映画に出てくるアクションスターのようにビルからビルへ飛び移ったり、壁から天井を一気に駈け上がったり、ビルの外壁の上で逆立ちしたり、鉄塔や橋桁の裏を逆さまに走ったりと、まあ早い話が命がいくつあってもたりないようなとびきりバカなことだ。
「たあっ」
「とーっ」
「やあーっ」
力の伝導効率に関して言えば、脚はむろん左手には及ばない。しかしどんなに長時間壁に貼り付いても頭に血が上ることはない。ということは、ぼくの身体はあくまでぼくの足下から派生したGの支配下にあるということである。移動方法は簡単だ。足の裏の接地面に重力を派生させ、両足のうち壁に接地している方に必ずGを派生させる。ぼくの体重を支えるくらいの重力なら外壁を痛めることはないし周囲に影響を及ぼすこともない。
この手のことをぼくは自分の身体(打ち身や擦り傷も含む)を通してひとつひとつ学んだ。ときどき靴底を滑らせて壁との接点を失い、マジで墜落死しかけたこともあったけれど、それでもめげずにぼくは来る日も来る日もこのCGなしの命がけのスタントにはげんだ。
またこのころ、ぼくは自分の能力や技に自分だけの名前をつけることに凝っていた。格闘ゲームの必殺技やカードゲームの特殊スキルのような、強そうでカッコイイ響きの奴だ。
これはまちがいなくこのごろ集中して見ていたアニメの悪影響といっていい。あまりにも熱を入れてアニメや映画を見続けた結果、ぼくは自分の好きなマンガやアニメのキャラクターになりきっており、自分の引き起こす物理現象にカッコイイ名前と設定をつけることで、あたかも自分もアニメの世界観の中に入っているようなふるまいをするようになっていたのである。
アホ丸出しだ。
まったく、今ふり返っても羞恥心のあまり自害したくなるが、恥かきついでに白状してしまえば、ぼくが命名した技はこれだけじゃない。特別な力を持った正統派バトルマンガやアニメの主人公がそうであるように、ぼくは自分の力のレベルにいくつかの段階を設け(べつにそんな必要はまったくないのだけれど)、それぞれに思い入れたっぷりのカッコイイ名前をつけた。ようするに脳内設定をより詳細にすることで、いっそう自分が物語の主人公であるという文脈を感じられるようなシチュエーションをこしえらたのである。
本当はこの過去は誰ひとり告げることなく墓の下まで持って行くつもりだったが……ええい。この機会だ。全部ぶちまけちまおう。
ぼくが脳内で設定したぼくの能力―――通称『呪われし暗黒(カーズド・ダーク)』は大きく分けて三段階のカテゴリーを有する。ちなみに下へ行くほど威力と危険度は高まり、エネルギーの消耗度が増す(という設定)。
解説しよう!
獅堂ログは超能力を持っている。『重力使い』としての能力を全面的に開花させた彼は、局面によってこれらの能力を自在に使いこなすことが出来るのだ。
冗談はともかく、ぼくが考えた設定では以下のようになっている。まず
対して次の
第三の、そして
ほかにも、ぼくのそもそも重力を生み出すこの力のことを『Gパワー』、ぼくの体力のことを『Gエナジー』、能力の持続時間のことは『Gリミット』、第一段階と第二段階の過渡的な技であり、グラビティ・ストリームとディメンション・トリガーの中間形態の一種である『ラグナロック・ディバイド』、発揮していた力を一度キャンセルし再び攻撃を仕掛けるという危険技『エクストリーム・アナザーワールド・リバース』などなど、ぼくはせっせと自分の技に名前をつけた。Gとはむろん「グラビティ」の頭文字だ。
どうだ痛いだろう。苦しかろう。
腹筋が。
まあ、あまり深くつっこまないでほしい。なんせこれは全部、ぼくが中学一年生の時に作った設定なんだから。
ともあれこんな感じでぼくは精神史という名のロゼッタストーンに自らの黒歴史をせっせと刻みつつ、痛い思春期を脇目も振らず全速力で突っ走っていた。なんのことはない、ぼくも十分、あの一方通行親父の血を受け継いでいたというわけだ。
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