第9話−1

 駅からの帰り道。マキに合わせて、ゆっくりめに歩く。マキは、もう泣いてはないけど、今はどんな顔をしてるんだろうか。こちらからは、顔が全然見えない。

「ねえ、有島くん」

 不意にマキが振り向いた。

「やっぱさ、出来るならだけど、せめてレイナを成仏させてあげたいんだけど。出来そうかな?」

 少し間をおいて有島くんが答える。

「幽霊の思いを叶えて成仏させるってのは、フィクションや民間伝承では確かに定番なんですけど、どうも現実の幽霊は、そういう訳には行かないようで。僕の経験では、彼らはこちらが何かしても、全然反応しないんです。だから、彼らのために何かをしてあげるのは不可能なんじゃないかと考えています」

「……そうかぁ」

 マキの顔が少し暗くなる。

「ただ、僕が見てきた幽霊は、少し経つと見えなくなったんです。多分、吉川さんの幽霊も同じでしょう。これは、時間が経つと自然に成仏出来ると、そう考えて良いような気がします」

「なるほどね。ありがと」

 マキは少しだけ笑って、そのまま前を向いて歩き出した。

「有島くん、ありがとうね。なんだかんだで、結構助かったわ」

「もう、大丈夫ですか?」

「まあ、本音を言うと、そんなにスッキリはしてないんだけど。でも、出来るだけの事はやったし——いや、むしろやり過ぎたくらいだし、これ以上はレイナに悪いかなって。だから、もういい」

 やれるだけの事をやったからなのか、それともさっき思いきり泣いたからなのか。涙の跡は明らかに残っていたけれど、マキの笑顔はとても爽やかだった。

「ねえ有島くん、また今度、幽霊の話とか色々聞かせてくんない?興味出てきた」

「いいですよ」

 有島くんは笑顔で答えた。

「じゃあ、また学校で」

 マキは自分の家の方へと歩いていった。

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