第7話
レイナの部屋を出て階段を下りていくと、下から男の人が顔を出した。
「ああ、中村さん、お久しぶりです。あと、そちらのお二人は初めましてですね。レイナの父親です」
レイナの父さんは、人が良さそうな笑顔で挨拶してきた。あたしと有島くんは、挨拶を返して、名乗った。
「あの、お時間に余裕があるなら、レイナの話を聞かせてもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」
居間に向かい合って座り、マキとレイナの父さんは色々な事を話した。マキは学校でのレイナとの思い出を。レイナの父さんは家族での思い出を。二人とも、とても楽しそうに話している。だけど、心の中ではレイナを失った悲しみが癒えたわけじゃないだろう。あたしは、二人の様子を見て少し複雑な気分だった。
「——それにしても、レイナとお父さんは、本当に仲が良かったんですね。うちは喧嘩ばかりだから、正直羨ましいです」
「そう——ですね。レイナは私を、まるで本当の父親のように慕ってくれていました。レイナが小さい頃は、この子と血が繋がっていない事をすっかり忘れてしまう事すらありました」
「そうですね。レイナの話で、かなりお父さんに甘えてるんだろうなって、思ってたんです」
マキは笑いながら言った。本当はさっき、日記を読んで初めて知ったんだけどね、と心の中で思った。
「えっ、そうですか?」
レイナの父さんは、意外にも驚いた顔になった。
「いやその、私はいつの頃からか、レイナが私に遠慮をしているんじゃないか、と感じるようになりまして。小さい頃は確かに甘えん坊だったんですけれども、成長するにつれ、聞き分けが良すぎると言いますか、良い子過ぎると言いますか、そういう感じになってしまいまして。私と血が繋がっていないという事の意味を、成長して理解してきたからなのか、と考えていたんですが」
レイナの父さんは、小さく溜め息をついた。
「会社の同僚が、『最近は、都合の良い時だけ甘えてくる』なんて愚痴ってるのを聞いて、それはそれで可愛いんじゃないか、なんて思っていたんですが、うちの娘にはそれが無かったんですね」
「レイナは大人しい子だし、性格のせいじゃないですか?」
レイナの父さんが少し落ち込んでいるように見えたので、何気なく慰めるような言葉を言った。
「そうかもしれません。そもそも個人差の問題で、あの年頃の女の子としては、普通の事なのかもしれません。私の方が、血が繋がっていない事を気にしていたのかも知れません。いずれにせよ、私としてはやはり、少し寂しい気持ちではありまして。実は、レイナに直接言った事もあるんですよ。『父さんは、レイナがもう少し悪い子でも、全然構わないよ』って」
そう言いながら、照れ臭そうに笑った。
「あはは、それ、あたしも思ったことあります」
その言葉に、全員が笑った。
「いや、何だかプライベートな話をしてしまって、申し訳ない」
レイナの父さんの声に、元気が戻った。
「でも、お話出来て、本当に良かった。中村さん、あなたがレイナの友達になってくれて、本当に良かったと思います」
マキは答えず、恥ずかしそうにもじもじとした。
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