第6話−1
「レイナ、怒ってなかったみたいね」
部屋に入るなり、マキに言った。
「うーん、でも、レイナ本人の言葉じゃないから」
マキは、部屋を見渡しながら素っ気なく答えた。
「嘘かもしれないって事?」
「あの人は、すごく優しいから。レイナだけでなく、あたしにも優しいの。だから、あたしに気を使ってくれたのかもしれない」
と、マキは振り返ってあたしの目を真っ直ぐに見た。
「一応言っとくけど、責めてるんじゃないの。嬉しいの。嬉しいんだけど、今はやっぱり、本当の事が知りたい」
それだけ言って、マキは後ろを向き、また部屋のあちこちを眺め始めた。
「綺麗な部屋ですね。よく片付いてる」
有島くんがぽつりと言った。
部屋にはベッドと机、タンスに大きめの棚が一つ。窓の下にバイオリンケースが立てかけてある。机の前に、有名なバイオリニストらしい人のポスターと、その横にマキとレイナが並んでポーズを取っているチェキが3枚、ピンで留めてあった。あたしの部屋と比べると、物は少なく、飾り気が少ない。レイナの母さんは、ほとんど何も触ってないと言っていたから、普段からきちんと整理されていたのだろう。
「バイオリン一筋だったからねー」
ポスターを眺めながらマキが言った。そのまま、横にあるチェキを見て嬉しそうに笑う。
「じゃあ日記、探そっか」
この前、マキがレイナの日記を読んでみたいと言い出した時は、さすがにびっくりした。死んでしまってるとは言え、本人に無断で日記を読むなんて、ちょっとやり過ぎじゃないか。まあ、マキもさすがに後ろめたい気持ちがあるようだったけど、それでも読みたい、レイナの気持ちが知りたいと押し切られた。
「なるべく音を立てないように気をつけないと、怪しまれますね」
「あー、普通の音なら大丈夫よ。ここ防音だから。バイオリンの練習が出来るようにって、お父さんが頑張ったんだって」
良くは知らないけど、防音にするのって結構お金がいるんじゃないのかな。ここまでしてもらえるのって、正直羨ましい。いや、うちの父さんも、お金に余裕があって、あたしが必死に頼み込んだら、やってくれるかもしれないけど。
マキは、机の上の棚に並んでいる本やノートを見ていた。有島くんは、なんだかソワソワと落ち着きがない。
「どうしたの?」
「いや、友達でもない女の子の部屋はちょっと。あまり部屋のものに触るのも、遠慮した方がいいだろうし、どうしたものかなと」
「あー、そうかも。あたしとマキで探すから、ちょっとだけ待ってて」
日記を置くとしたら机のどこかだとは思ったけど、そっちはマキに任せて、念のために棚の方も見てみる事にした。
パッと見た感じ、棚には何かの雑誌、漫画の単行本と音楽CD、それに小さなコンポに高そうなヘッドフォンが繋ぎっぱなしで置かれていた。レイナの趣味のものが、全部ここにまとめて置かれているらしかった。
雑誌や漫画に混じって日記がないかなと思ったけど、それらしきものは無かった。ふとCDを見てみる。クラシック音楽の他にも、ラブサイケデリコやスピッツ、ビートルズやオアシスのCDもあった。デリコとスピッツは、前に好きだって聞いたけど、ビートルズなんかも聴くのね。スピッツが好きなのは父さんの影響だって言ってたけど、ビートルズもそうなのかな。
「日記、あった」
マキの声に振り返ると、マキは分厚い表紙の本を手に取って、パラパラとページをめくっていた。
「日記を書いてるとしか聞いてなかったから、もしパソコンの中だったらどうしようと思ったけど。アナログ派で助かったわ——あ、あった。喧嘩した日の日記」
有島くんも日記を覗き込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます