第5話
日曜日。
あたし達三人は、電車とバスを乗り継いで、レイナの家に向かった。有島くんは、僕は吉川さんの知り合いでないからと遠慮したのだけど、マキが何かあった時に有島くんの意見も聞きたいからとお願いして、同行する事になった。レイナの母さんには、有島くんもレイナの友達だったと伝えてある。
住宅街の通りの中で、一軒だけ目立つデザインの家があり、それがレイナの家だった。こういうの、デザイナーズハウスと言うんだったかな。大きさは普通の家と変わらないけど、シンプルなのにやたら格好いいデザインだった。
ドアのチャイムを鳴らすと、レイナの母さんが出た。父さんは出掛けているらしい。家の中に上がらせてもらって、まずは三人揃って、レイナの仏壇に手を合わせた。
「レイナのために、遠いところをわざわざ、ありがとうございます」
レイナの母さんは、あたし達に紅茶とクッキーを出してくれた。ゆっくり落ち着いた話し方は、レイナにそっくりだ。
「本当はこちらから連絡したかったんですけど、レイナのスマホ、パスワードが分からないから使えなくて」
マキからの連絡を待つために、暫くはレイナのスマホを解約せずに置いておいた、とレイナの母さんは言った。転校先でも友達は出来たものの、少なくとも母さんから見た感じでは、レイナにとって一番の友達は、最後までマキだったらしい。
「実は、マキさん達に来ていただいて、少しホッとしてるんです。レイナとマキさんが喧嘩したんじゃないかと、心配していたもので。最後にいらした時、お帰りになる時に二人の様子が少し変だと感じたので」
「えーと、はい。実は口喧嘩してしまいまして。一応、その場で謝って、どうにか収まったんですけど」
「あら、やっぱりそうだったんですね。あの子が喧嘩したのは、わたしが知る限りでは初めてじゃないかしら。わたしとも、父親とも、口論になる事は全くありませんでしたし」
「そうですね、あたしも意外でした。レイナが、あれだけ熱くなるなんて」
マキは唇を指でなぞった。
「あの、実はあの日、あたしがお父さんと出かけに口喧嘩してしまいまして。それで、お父さんの話でつい熱くなってしまったんです。それで、レイナも熱くなっちゃって」
「父親の事で、ですか」
レイナの母さんは、そこで少し考え込んだ。
「あの、ひょっとしたらレイナから聞いているかもしれませんけど、あの子はわたしの連れ子だったので、夫とは血が繋がっていないんです。それでも、わたしには二人が本当の親子のような、とても良い関係を築けているように見えていたのです。しかし、夫は必ずしもそのようには思っていないようで」
「何かトラブルがあったとか?」
「いえ、今言いましたように、わたしの知る限りでは何も」
どうもスッキリしない。レイナは、母さんにも言えないような秘密を抱えていたんだろうか。
「あの、あたしが帰った後、レイナの様子はどうでした?例えば、怒った様子だったとか。今度、改めてちゃんと仲直りしようと思っていたんですけど、こんな事になってしまって。ずっと気になってたんです」
レイナの母さんは、最初は少し戸惑うような表情だったけれど、すぐに優しい笑顔になった。
「大丈夫よ、マキさん。怒ってはいませんでした。あの子も仲直りしようと考えてたみたい。マキさんとの事は、直接は聞いていないけれど、友達と仲直りするいい方法をわたしに聞いてきましたから。わたしは、素直に謝って、ちゃんと話し合いなさいって答えたんですけれど、レイナから連絡は無かったかしら」
「はい。えーとその、実はあたしからも連絡を取ってないんですけど……」
「そう。レイナは引っ込み思案なところがあるから、自分から言い出すのは難しかったのかもしれませんね。申し訳ないけど、そこは許してあげてね」
マキは少し笑った。
レイナの母さんの言葉は、とても優しい。この優しさに包まれて、レイナは育てられたのか。
「あ、あの、ところで、失礼かもしれませんけど、レイナの部屋を見せてもらってもいいですか?その、レイナの思い出に触れたくて……」
緊張した口ぶりで、マキが本題を切り出した。レイナの部屋で日記を探す。これが、レイナの家までやってきた、そもそもの理由だった。
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