第4話−2

「一応、謝ったのね?」

「うん。でもなんか、ごめんとしか言えなくて。なんか、こう、どう言ったらいいのか、分かんなくて」

「まあ確かに、『お父さんの本当の子供じゃない』は、ちょっと非道かったかもしれませんね」

 軽く苦笑いを浮かべながら、有島くんは言いにくい事をはっきりと言った。

「正直、反省してる。かなり反省してる。でもね、あの時はレイナも、珍しく感情的になっちゃってて。お互いに、止まらなかったのよね」

「確かに、レイナが口論するのって珍しいよね」

 珍しいどころか、レイナが口論する姿が全く想像できない。

「ひょっとしたら、レイナもお父さんと何かあったのかなぁ。あの食い下がり方は、やっぱちょっと変な感じだわ。最後には『何があっても、お父さんには産んでくれた事に感謝しなきゃ駄目』とまで言われて、それで——」

「なるほど」

 要するに、マキはレイナの言葉をとにかく否定したいがために、レイナの言葉に反射的に反応してしまったのだ。マキの父親嫌いは筋金入りだから、父親に感謝しろと言われたのが本気で嫌だったんだろう。あたしはマキとの付き合いがそれなりに長いから、マキに悪気が無かった事はなんとなく分かる。

「しかし、中村さんは、どうしてそんなにお父さんと仲が悪いんですか?」

 ああ……。あんまり、マキに父さんの話を振って欲しくないんだけど。

「いや、はっきり言うけど、うちの親父って性格サイッテーだからね。あの日も、家を出ようとしたら、レイナとの付き合いを考え直した方がいい、とか言い出すの。何かと思えば、『金持ちは信用するな』ってさ。馬鹿みたい。レイナの父さんは、会社で他の人間を蹴落としたり、色々と非道い事をしてるに違いないってさ。だから金持ちなんだって。そんな奴の娘も同じような人間に違いないから付き合うな、って事らしいんだけど。完全にただのひがみじゃん。だいたい、なんでお前があたしの付き合う相手を決めるんだっての。それも、本人は大真面目なつもりでね。ふざけんなって」

「でも——」と、有島くんが何か言いかけたので、急いで割って入った。

「マキの父さん、レイナの父さんのこと知ってるんだ?」

「どうも、お母さんが喋ったらしいのよ。あたしが良く遊びに行ってる友達とはどんな子だ、とか何とか聞かれて。お母さんには、あたしが色々と話してたからね。どうして喋っちゃうかなぁ」

 これは、母さんを責めても仕方ないよね。と思ったけど、黙っておいた。

「しかしレイナも、今の話を聞いてまだ父さんと仲良くしろって、相当に父さんと仲が良いみたいね」

「え?ああ、レイナには今の話、してないのよ。さすがにちょっと、気まずいからさ。だから、レイナにはあたしが何故怒っているのか、ちゃんと伝わってなかったんじゃないかとは思う」

 マキは、そこで一呼吸置いた。

「でも、これであたしたちの関係は、終わっちゃった。喧嘩別れのまま」

 そう言いながら、靴で足元の砂をもてあそぶ。

「それが、吉川さんが中村さんの事を恨んでいると考える理由なのですね。でも、どうかなぁ。うーん」

「恨んではないんじゃない?その場ではショックだったかもしれないけど、落ち着いたらマキがどうしてそんな事を言ったのか、分かるんじゃないかな」

「僕は吉川さんを知らないけど、そこまで引きずるような話ではないと思いますよ」

「うん、ありがと」

 マキは笑った。が、すぐに真顔になった。

「じゃあさ、どうしてレイナは幽霊になったの?なんであたしの前に出てくるの?」

 ついさっき、あたしが有島くんに言ったのと、全く同じ言葉だ。

「さっき、高倉さんにも言ったんですけど、幽霊が現れる理由は、調べても良く分からないまま終わる事が多いんです。この件についても、ただ視界の隅っこでチラッと見えるだけじゃ、何のヒントにもなりませんし」

「でも、うぅん、このまま放っておくのも、なんか嫌な感じだし」

「最終的な判断は、お二人にお任せしますけど、僕個人としては、成果はあまり期待できないと思います。——どうします?」

 これは、マキが決めるべきだろう。そう思いながら、マキの顔を見た。

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