第3話−1
吉川レイナは、去年の11月に転校していった、あたしとマキの友人。知り合ったのが高校に入学してからだから、たかだか半年程度の付き合いだったけど、マキにとっては未だに一番の友達だと言える子かもしれない。あたしの方は、春休みくらいでラインのやり取りが止まっちゃったけど、マキは未だに繋がってるって言ってたし。
レイナは、大人しい性格の子だった。クラシック音楽が好きで、趣味でバイオリンをやっている。最初の印象は、どこか良家のお嬢様といったものだったけど、実際には普通の音楽もそこそこ聞くし、漫画も読むし、あたし達とそんなには違わない、普通の女の子だった。
レイナは、その性格のせいか、大人数の中に居るのが苦手だった。だから、あたし達三人だけで会う事が多かった。普段はあまり積極的ではないレイナが、マキとはしっかり話したり、ふざけあったりしていた。マキとは正反対の性格だったから、そんな光景はかなり意外に見えた。今でも、どうしてこの二人の気が合ったのか、あたしには良く分からない。
「一応言っとくけど、あたしはレイナが死んだなんて、全然思ってないから」
誰に聞かれるでもなく、マキが話し始める。
「一月くらい前にもラインで話したし、そん時は普通に元気そうだったよ?もうすぐ——確か次の日曜日に、バイオリンのコンクールがあるんだけど、それに向けて頑張って練習してるって」
「一月前という事は、最初に幽霊を見る一週間くらい前ですね。幽霊を見てから、吉川さんに連絡は?」
「いや、してない。最近は月に一回くらいが普通だし、コンクールの前って、ライン送っても返事が返ってこない事も多いから」
「思い切って、本人に連絡を入れて、確認してみませんか?モヤモヤしていても、仕方ないですし」
マキは、あまり気が進まない様子でスマホを取り出し、ラインの画面を出した。
「でも、何て送ったら良いのかな?普通にあいさつとか世間話で良いか?」
「あ、まあラインでも良いんですけど、電話の方が良くないですか?すぐに結果が分かりますし」
「いいけど、もし電話に出たら、何て言ったらいい?ちょっと、思いつかない」
「えーと、もうすぐコンクールに出場するんでしたよね?たまにはメッセージじゃなくて、声で応援を送りたかったとか」
「ああ、そう言えば前にそれやった事あるわ。それで行く」
マキは画面を何回かタップして、スマホを耳に当てた。なかなか繋がらないらしく、マキは次第にそわそわし始めた。そして、何の前触れもなく、びっくりした顔でこちらを見た。
「レイナじゃない。お母さんが出た」
嫌な予感。
「はい、そうです、その中村マキです。あの、レイナは?何かあったんですか?」
ほんの少しの沈黙の後、マキの顔色が一気に青くなった。
「そう、ですか。あの、近いうちに一度、そちらに行くかもしれませんので。ご焼香?とか、その。はい、その時にまた」
マキは電話を切った。
「交通事故だって」
それだけ、ぽつりと言った。
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