第15話 這い憑きし者③

「「「その心も、体も、魂も。カナを構築する全てが欲しいんだ」」」


(……なんだか物凄いこと言われました)


 蘇芳の口から飛び出したとんでも発言。

 通常ならば問答無用にドン引きしてもおかしくないレベルのイカれた発言だが、しかし言われたカナは以外にも冷静だった。

 無論冷静なのは表面上だけで、内面はドン引きもしてれば嬉しさも感じ、困惑してれば殺意も抱いてるなど相も変わらず混沌としているが。


「ついに言っちゃった。言っちゃった!」


「ようやく言えてすっきりしたね!」


「ずっと近くにいるのに想いを打ち明けられないのはつらかったからね!」


(……なんでこの方は自分と会話してテンション上げてるんでしょう)


 きゃっきゃっきゃっきゃっはしゃぐ蘇芳にそんな率直な疑問を抱く。

 目の前の三人が同一人物というのならば、今蘇芳が行っているのは鏡の中の自分に語りかけるのと同じことだろうに。恥ずかしげもなくよく自分自身と会話し、挙げ句の果てには気分を上げられるものである。


「……あの」


「はい?」


「心の中で思ってるだけじゃなくて、突っ込んでくれると嬉しいんだけど。流石に自分との会話でテンション上げてるのはキツイからさ」


 卑猥な格好の短髪蘇芳の言葉に思わずめんどくさ、と心の中で悪態を吐いてしまったが、これは仕方ないことだろう。実際この上なく面倒臭いのだから。むしろ口に出さなかっただけ優しい方だと思う。


(にしても、どうして今暴露したのでしょうか?)


 ふと思う。

 今このタイミングで色々暴露してなんの意味があるのだろうかと。別にもっと関係を深めてからでも遅くはないはずなのに、どうしてそう親しくない今ぶっちゃけたのか。これでは無駄に警戒心を募らせ


「それはあれだよ。理由は幾つかあるけど、これから一緒に生活するなら隠し事は無い方がいいかなって。カナなら暴露しても関係が壊れる心配はないし」


 しれっと。発問してないのに軍服姿の蘇芳が答えてくる。

 さも当たり前のように心の裡を見透かされたことになにも思わないと言えば嘘になるが、今はそれより重大なことがあるため置いておく。


「一緒に生活するからですか。わかりませんね。今までも行動は共にしていたではありませんか。そもそもどうして私なら暴露しても平気だと思えるんです? 幾ら心を読めても心がどう移ろうかまでは……」


 言いかけ、はたと気づく。

 もしやこの方はそんなことまで通暁つうぎょうしてるのでは、と。

 口を閉じたカナに少女蘇芳が答え合わせする。


「うん。わかるよ。いや、正確には見通せるって言った方が正解かな? 他にも欲しい情報は望んだだけで手に入りもするけど……とにかく。何をしたらどう思うか。何をしたらどう感じるか。全部わかるんだよね」

「未来を視ながら攻略本片手に相手の心を読んで生活してるって言えば分かりやすいかな? 何重にも情報を得てるからまず外れることがないんだ」


 それはあまりにも馬鹿げた答えだった。

 望んだだけで手に入る? 未来を見通す? 相手の心を読む?

 確かに後ろの二つは自分も存在力でそういう道具を創造すればできるが、それでも望んだだけで手に入るというのは。比喩かなにかならばあれだが、言葉のままならばそれはあまりにも常軌を逸していないか。


(どうやら想像以上の規格外のようですね)


「後、今暴露したもう一つの理由はそれだよ」


 と、変態少女を単なるストーカーから尋常ならざる規格外へと評価を改めていると、軍服蘇芳が言った。

 カナはこてんと首を傾げる。


「それとは?」


「それはそれだよ。今カナはわたしの認識を改めたでしょ?」


 なるほど、とカナはそれだけで言わんとすることを理解する。


「つまり貴女は変化を起こすために暴露したと?」


「うん。正解。あのままだとカナはわたしのことをただ付き纏ってくるだけの変態少女としか見ず、今一つ興味を示さなかったよね。でも、色々暴露した今は違うでしょ? 少なからず興味を抱いてるよね」


 確かにその通りだった。

 勿論、絶えず様々な感情・思考を一同に介してるのが自分だ。そのため以前から多少は興味を抱いてもいたが……それでも、今回の暴露がなければ認識が大幅に変わることはなかったのは事実である。

 だが、しかし、と。カナは引っ掛かりを覚え、それを口に出す。


「微妙にわかりませんね。そもそもあんな茶番を仕組まず普通に出会い、普通に接していれば変態ストーカー少女なんて評価は下しませんでしたよ。貴女ならそれすらわかっていたはずですよね?」


 蘇芳は変態少女としてしか自分を見ず、それ以上の興味を抱いていなかったからその状況を打破するために暴露したという。

 だがそれはおかしいだろう。未来を見通せ望んだ情報が入手できるというのなら、どう行動すれば興味を持たれるかも事前に把握できるということだ。ならば最初からそういう風に行動すればいいだけではないか。


 そう。わざわざ変態少女のような言動を取っていたのに、その評価を覆すために暴露するというのはハッキリ言って矛盾している。

 そんな無駄に労力を使うような遠回りをしてどうするというのか。初めから興味を持たれるような出会い方をして、興味を持たれるような行動を取れば済む話ではないか。


「それはほら。あれだよ。運命的な出逢い方って素敵だし、わたしが普通にえっちぃこと好きな俗に言う変態だから。後はそういう気分だったから」


「……」


 少女蘇芳の言葉にカナは瞬時に感得した。

 この方は言動を真面目に考察しても無意味な類いの人物なのだと。


「ま、そんなどうでもいいことはどうでもいいんだ。話を戻すけど、わたしはカナが欲しい。繰り返しになるけどその体も心も魂も。カナの全てがほしい。けど今はまだカナの心はわたしに向いていない」

「勿論魔法・能力・存在力。それらを駆使すればカナの心をねじ曲げることも、記憶を書き換えて偽りの関係を刷り込むことも、思考を操作してそういう気持ちにさせることも容易いけど、それじゃわたしは満足しない」


 だから、と。蘇芳が告げ、


「「「カナには今日からわたし達と一緒に生活してもらうことにしました」」」


 転瞬。見計らったように二人の女が新たに姿を現した。

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