第9話

「あ、あの、お姉ちゃん。し、下も触っていいんだよ? ほ、ほら……」


「……」


「いたぁ!」


 開口一番。目を覚ました少女はそんなことを宣いながら自身の胸を揉む方とは別のカナの手を手に取り、自らの陰部へと誘おうとするが、突如駆け巡るねじ切れるような胸の痛みに悲鳴を上げた。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ! わたしが悪かったから謝るから! お姉ちゃん捻らないで捻らないで! 胸取れちゃうからぁ! あ、でもこれはこれで気持ちいいかみぉ! 乳首潰れる乳首潰れるぅ!」


 無言のまま胸を捻っていたカナは、少女の変態発言に今度は可愛らしい蕾を手折るように摘まみ一思いに力を加える。

 流石に乳首を思い切り潰されては堪らないのか身を動かし、必死に逃れようとするが、服に手を突っ込まれてる以上逃げるのは当然安易なことではなく。


「みゃぁぁあぁあぁぁぁぁぁっ!!」


 抵抗空しく平地に一際大きな喚声が轟くのだった。



†††



「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」


「……」


 平地に敷かれたこざのレジャーシートと広げられた数多の料理。

 その上に正座し、気品を感じさせる所作で優雅に食事をするカナは、体育座りで膝に顔を埋め涙を流す少女を一瞥。


 平地で一夜を明かした二人は起床後食事に移ったのだが、少女は一向に料理に手をつけようとせず、ずっとしくしくしく口で言いながら泣いているのだ。


(……面倒臭い娘ですね)


 カナは箸を器用に扱い卵焼きを口に運びながら時折こちらになにかを期待するような視線を向けてくる少女に対し内心で溜め息を吐く。


「しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」


「はぁ。わかりました。お詫びに食べさせてあげますから」


「いいの!?」


 一瞬。本当に一瞬の早変わりだった。

 瞬く間に涙が引っ込みいつも通りの笑顔に戻った少女は、とてとてカナのもとまで歩くと、勝手に膝の上に腰を下ろす。


「……食べさせるとは言いましたが、座っていいとは言ってませんよ?」


「えへへ。座っちゃった」


「はぁ」


 なんかもう一々なにかを言うのも無駄だと感じたのか、カナは特大の溜め息を吐くだけでそれ以上なにかを言うようなことはせず、悠長に惣菜を摘まむとそのまま少女の口へと運ぶ。

 少女は口元まで持ってこられた惣菜をあーんと呟きながら小さな口でぱくりと頬張る。もぐもぐ咀嚼する少女を眺めながらカナも惣菜を一口。


「あ~ん。あ~んっ」


 雛鳥がそうするように口を開け催促する少女のもとへ料理を運び、カナもまた一口。


「……ふぅ。ごちそうさまでした」


 そうこう食事を進めること約10分。

 カナが入れ物や箸を抹消する一方で少女はカナにしなだれかかりご満悦といった感じでお腹を擦っていた。カナがなんとはなしにその頭を撫でると少女はだらしなく顔を弛緩させより一層その顔に喜色を浮かべる。


「んきゅん。……ねぇ。この後はどこに行くの?」


「そうですね。なんだか放浪の旅にも飽きてきましたので、とりあえず現在進行形でどちらかの魔王の軍勢に侵攻されている国へ赴いて魔王の軍勢を蹂躙し、暇潰しに世界を荒そうかと考えています」


「そうなんだ。お姉ちゃんが強いのは知ってるけど、ほどほどにね? ……ところで話は変わるんだけど、いいかな?」


「? なんですか?」


「あのね、お姉ちゃんは膝まで伸びるぶかふがのシャツのせいで気付かなかったと思うけど、朝胸揉まれてた時実は起きてて何回か我慢できずにあの……ね? だから新しい下着とズボンが欲しいなってあたたたたっ! 頬千切れる頬千切れるっ!」


「なんか湿ってると思ったらそういうことですか。どれだけ躾のなってない駄犬なのですか貴女は。恥を知りなさい」


「知る知るっ! 恥知るから! 超知るから! やべぇほど知っちゃうから! だから頬つねるのやめて! 頬千切れる千切れるからっ! みゃぁぁあぁあぁぁぁぁぁっ!!」


 再度晴天下に少女の絶叫が響き渡るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る