第5.5話

 柵に囲まれたファルドォルの村。


「カナが来るまで約2分。長いといえば長いなぁ。それにわたしのこと知らないのに敵陣に躊躇いなく撃ち込むってことはまだまだその程度にしか思われてないってことだし。まだまだ時間かかりそうだなぁ」


 露出部分の多い一見鎧に思えない妖艶なデザインの鎧を身に纏った、その場に座り込み虚空を見上げる少女はそう呟くなり肩を落とす。

 ゴブリンや人狼、角を生やした人間など。周囲を鎧で身を固めた者達に包囲されているというのに一切気にしていない様子だ。


「「「……」」」


 否。蝋で固められたように微動だにしない者達を気にしろという方が無理があるか。

 そう。今この町の中で動いているのは少女だけで他の面々は全員。つい先程民家からぞろぞろ出てきて少女を包囲した、このファルドォルの村を駐屯地とする魔王軍の者は皆誰一人として身動みじろぎ一つしていない。


 さもありなん。彼女を包囲する者達の時は停止しているのだから動けるわけがない。そもそも動く云々以前に今の彼らには意識すらないため、今自分達が停止していることを認知することすらない。


「親密な関係になったらなにしようかな。旅行? デート? カラオケ? 着物作り? 超過激な性行為? ん~! 想像しただけでときめきが止まらないね!」


 喜色満面の笑顔を浮かべる少女は来るべき未来に心踊らせる。

 今はまだ無理なことでも、カナが依存してくれればそれらもできるようになる。その事実だけでもう魂が潤う。無限の悦びが湧き出てくる。

 それはこれ以上ない法悦。全身が幸福感で満たされる。


「待ち遠しいなぁ」


 少女は忠心から切望する。

 魂から待ち望む。

 その日の到来を。

 カナと自分が共依存の関係になるその時を。

 カナが自分の心身を求めるようになるその瞬間を。

 カナが仲間になる将来を。

 カナと自分と他の仲間達とが共に過ごす幸福の未来を。


「本当、待ち遠しいなぁ」


 少女……蘇芳は微笑みを刻み待ち焦がれる。

 純粋に。純真に。無垢に。無邪気に。清廉に。

 一点の曇りもない綺麗な笑顔を浮かべ。

 クリスマスプレゼントを待ち望む子供のように。

 蘇芳はただただ待ちわびる。


 それは見る者が見ればおぞましいと感じるほどの愛情表現。

 誰のことも信用せず裏切れば即座に切り捨てるのに。

 それなのにもかかわらず気に入った者を強く、それこそ異常なまでに追い求める彼女の。彼女達の姿勢はきっと狂っていると、壊れていると。そう捉えられてもおかしくないものなのだろう。


 だが誰がどう思うと彼女達は止まらなければ変わりもしない。

 なんせ彼女達はもう既にそういう風な形で完成しているのだから。

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