第3.5話

 魔王国の首都、ネルファルナの中央に自らの存在を誇示するように堂々と聳え立つ巨大な城。その謁見の間。


「なに? アルファラノ村の駐屯部隊及びそこを監視していた監視者、両方との連絡が途絶えただと? それは間違いないのか?」


「間違いありません」


「そうか。わかった。下がれ」


「……」


 派手すぎず、しかし決して地味ではない玉座に腰を落ち着かせた赤みがかった黒髪の男は報告した全身が毛に覆われた二足歩行の狼を思わせる人物を下がらせようとするが、その者は下がる気配を見せない。


「? どうした?」


 黒髪の男はなにか言いたそうにしているのを目敏く察し尋ねる。

 人狼は数秒の間黙考した後、重々しく口を開く。


「……いえ、大変言いにくいことなのですが……一部の者がその……女達を犯そうと画策しているとの噂が……ひっ!」


 一瞬。ほんの一瞬。今の今まで気だる気な印象すら抱かせる表情をしていた男の表情が激情に彩られ、あまりの怒りの形相に人狼は悲鳴を漏らす。


「すぐに警備を強化しろ。そしてそれと並行して真偽の程を確認。裏が取れ次第いつも通り全員拷問部屋に送れ。一人として逃がすな」


「は、はい! 了解しました!」


 返事を返すなり人狼は逃げ去るように部屋から退出する。

 否、実際人狼は男から放たれる尋常ならざる気配から逃げたのだろう。それほどまでの鬼気迫るものを男は放っているのだ。


「……くそ。58年ぶりか。何度言っても定期的に現れやがるな。なにも知らない屑共が」


 男は忌々しそうに吐き捨てる。

 そこには怒りと共にとある感情が介在している。


「連中のことをなにも知らないから犯そうだなんて発想に至るんだ。糞が」


 そのとある感情とは、そう。怯えであり恐怖である。

 彼は知っていた。正確にはその情報を与えられていた。とある者達の情報を。

 だからこそ彼はその者達を畏怖し、組織全体に性的暴行を行わぬよう徹底させていた。


 彼は理解しているのだ。魔王と恐れられる自分をしてもどうしようもない相手がいることを。自分と骸骨王とかいう異世界の魔王両方を同時に相手しても一方的な蹂躙が行える者の存在を。


「……暫くは俺自ら警備を勤めるか」


 故に彼は自ら動く。警備などという決して組織の長がやるべきでない仕事を行いにいく。正義感でも彼なりの矜持のためでもない。全ては不条理な存在に目をつけられないようにするために。保身のために。


 星を支配しようとしてる男がなにをと思う者もいるだろうが、別に彼は臆病風に吹かれた訳ではない。むしろあの者達が行っていることを。あの場という地獄の存在を。それらを知っているにもかかわらず性的暴行を行う者がいれば、それはただの馬鹿でしかないのである。

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