初めての担任

「先生!先生!見てー!昨日ね、じいちゃんに買ってもらった!」

教室に入った瞬間、駿が駆け寄ってきた。手には、真新しい消しゴムが載っている。『すらすら消えるさん』シリーズの消しゴムだ。まるで鉛筆のようにすらすら消せることを売りにしていて、最近は様々なキャラクターとコラボレーションしている。駿が買ってもらったのは、ケースにゲームのキャラクターがデザインされている、新発売の商品だ。

「よかったじゃん!これで、いっぱいお勉強できますねぇ?」

私はニヤリとした顔でちょっといじわるく言った。

「えー、それはー考えとくーーー!ばいばーい!」

駿は笑いながら廊下に出ていった。




私がこのクラスの担任になってから早二ヶ月が過ぎようとしている。やっと、授業らしい授業が出来るようになってきたな、と最近思う。




二ヶ月前。桜があと少しで満開になりそうな四月一日。これから始まる教員生活にドキドキしながら校門をくぐった。初任は私だけだったが、他に転任してきた先生が四人いて、みんな一緒に校長室へ案内された。「今から言う順番にお並びください。」と教頭先生に言われ、恐らく年功序列で、校長先生の前に並ぶ。「…本日をもって、この東山第一小学校での勤務を命ず。」確か、そんなようなことを言われた気がする。こんな儀式があるんだなぁと思った。

全員が辞令交付を受けると、控え室に案内されて、今度は一人ずつ校長室へ呼ばれた。

「長野夏実先生、こちらへ。」

「失礼します。」

校長先生は、女性だ。小柄で、少しぽっちゃりしている。校長職につくのは大体50代半ばくらいかと思うが、この先生はまだ50代には見えなかった。若くして出世した、エリートなのだろうか。

「どうですか?緊張していますか?」

校長先生は優しい笑顔で言った。

「はい、少し。でも、先生方が丁寧にもてなして下さったお陰で、大分緊張はほぐれました。」

第一印象が大切だと思い、なるべく笑顔をつくる。

「それはよかったです。初任の一年間はとても大変だと思うけれど、この学校にいる先生方は皆さんいい人ばかりだから、きっと支えてくれます。頑張ってくださいね。」

「はい。たくさん勉強させて頂きたいと思います。」

やはり、校長先生の前は緊張する。優しい笑顔の奥に、鋼の様に屈強な威厳が見え隠れしているように感じた。

「では、早速。先生に担任してもらうクラスなんだけど…。4年2組をお願いしたいの。どうかしら?」

4年生か…。中学年という微妙なライン。まだまだ幼い子もいれば、6年生と変わらないくらいませている子もいるだろう。

……おもしろそう。

「はい。よろしくお願いします。私にできることを精一杯やります。」

「その気持ち、忘れないでね。良い出会いになりますように。」

校長先生は静かに言った。

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