真相は黙して語らず

大福 黒団子

真相は黙して語らず

 たとえばの話だ。仲の良い、誰でもいい。友人や家族や恋人が居たとする。

 その人が突然自分を裏切ったら貴方はどうするだろうか。


 僕は本日お昼頃、友人に裏切られました。どうやって裏切られたかというと、屋上から突き落されたのだ。それも唐突に。

 最初彼はこう言った。

「いつも通り屋上でお昼食べようよ」

 僕もそれに賛成したのだ。いつもの日課みたいなものだったし、否定する理由はない。それに彼と話しながらお昼を過ごすのはとても楽しい時間だから。

 そう、だから。警戒なんてしていなかった。自分が背もたれにしていたフェンスに予め傷があったなんて誰が思う? 偶然座った筈の場所が、実は誘導されていたなんて誰が思う?


 彼の弁当箱に、お昼ご飯ではなく包丁が入っていたなんて――誰が予想する?


 最初は包丁を奪い、逆に脅して逃げてやろうとしたさ。しかし、現実はそんなに甘くはない。包丁は脅す為だけに使われ、実際は足で散々体を蹴られて弱らせられた挙句突き落される。

 そもそも冷静な判断をすれば、今こうやって落ちているのも回避できたかもしれない。人間、裏切られると気が動転して冷静な思考回路なんて微塵もなくなる。

 このまま僕は死ぬのだろうか? そもそもなんで彼はこんなことをしたのだろうか? 分からない。


 唯一分かったのは、床に体がブチ当てらたという事を証明する激痛のみだった。



 俺には好きな人が居ました。彼は友人で、同性の相手。のんびりしすぎて、とろいと馬鹿にされる俺にも優しくしてくれるいい人です。

 そう、彼は良い人です。いい人だから、俺を馬鹿にするが害虫共とも仕方なく付き合っているのです。いい人だから、俺の状況を無視する愚かな先公どもにも感謝の言葉を述べるのです。

 いい人だから彼は騙されているのです。だから、彼の友人である俺が彼を解放してあげなければならなかったのは必然的。それに何より、彼を誰にも取られたくないのです。

 出会いは入学して数週間の事でした。俺は周りになじめず、またはっきりとしない性格なのもあって周りから利用されてばかり。

 そんな中、彼だけは俺を利用せずに手を差し伸べてくれました。嬉しかった。そして友人になれたことで、さらに嬉しさに包まれた。 

 だけどなぜ、俺という友人が居ながら周りと親しくするのか常に疑問を浮かべていました。しかし、よくよく考えれば些細な事。彼の性格上、俺を守ってくれたのです。

 あぁ優しい。そうか、もしかしたらそれが彼の愛の形なのかもしれない。分かります。俺にはっきりと分かります。愛の形だと気付いたとき、俺は彼に惚れました。

 もっと彼の事が知りたくなったので、彼の服や私物に盗聴器を仕掛ける事にしたのです。別に悪いだなんて思っていませんよ。ほら、よく言うじゃないですか。


『好きな事を知るためには調べなさい』――と。


 だからこれは手段にすぎません。そのおかげでよく分かりました。本当によく、分かりました。この感情は俺の一方通行だと。

 仕方ありません。勝手に恋をしたのは俺の方ですから。しかし、まだ友人であると思ってくれるのはとても可愛いものです。彼の純粋さは本当に、憎らしい程愛おしい。

 可愛いなぁ、可愛いなぁ、かわいいかわいい……馬鹿だなぁ。


 分かってないんだろうなぁ、一緒に昼飯食ってる時に俺はお前を脳内で犯し続けているってことに全然わかってねぇんだろうなぁ? お前が自慰行為してる時の声を、お前と登校するときずっと聞いてるってことも知らないんだもんなぁああ? 

 馬鹿だなぁ、馬鹿は良い。可愛い。証拠を作れば罠に嵌りやすい。だが、周りの邪魔者はどう排除するべきか。そもそも消すことはハイリスクを背負う。警察沙汰になるなんて論外だ。

 どうやって独り占めする? それこそ自分と同じ状況にさせる? いや。アイツらに彼が罵られるなど我慢ならない。彼が穢れる。そもそも人間なんて完全に征服なんてできない。

 監禁なんてのも考えたが、其れこそ行方不明扱いになってぱぁだ。どうやって手に入れよう。永遠に手に入るならなんだってかまわない。――そうだ。

 我ながら最悪最低の手段だが、もうこれで良い。手に入りさえすればいい。彼を殺そう。いや、殺してあげよう。

 所詮人間、生きてれば死ぬ。だから、死期を俺が彼にプレゼントしてあげるのだ。見知らぬ誰かに殺されるよりかは幾分もマシ。むしろ愛だ。


 作戦決行の日、やはり彼はいつも通り。そう、いつも通りのあの場所にあのフェンスに腰かけて昼食をとる。

 彼の定位置は把握していたから、教室移動の時間の間にちまちまフェンスをニッパーで壊れやすく細工していた。そもそもこの作戦が出来たのは、社会と理科と体育の時間の間だがそれだけあれば十分だ。

 のんびり屋なんて、そんなの性格上の話。実際俺の脚は早い。けれど、のんびり屋のイメージ通りに演じ続けていればそんな事誰も分かるまい。

 屋上から彼を落とす前に、彼には思ってもらわないといけない感情がある。それは、俺を裏切り者だと思う失望、憎悪、悲しみ、苦しみ。俺があの時味わったものと同じ感情の全て。

 だから、彼が反撃できなくなるまで蹴り続けた。蹴ってる間は酷く興奮した。いや、欲情していたんだ。懇願するような、悲しむその顔と痛みを耐える声の愛おしい事! 異常性癖だとなんだと言われようとも、欲情するから仕方がない。そして突き落した顔の絶望顔。素敵だった。今まで見せてくれたどの表情よりも素敵だったのだ!


 彼が落ちる間に、急いで落ちる地点に向かう。もしかしたら死なないかもしれない。だとしたら、きっちり殺してあげないと可愛そうだ。

 案の定、彼は虫の息。あぁ良かった。殺してあげれる。

「……どうして」

「愛してる。もう大丈夫。苦しくないよ」

 一切の容赦なく、彼の心臓に包丁を突き刺して――彼は絶命した。

 やった! やったやったやった! ひひっひはははははっ! あまりの嬉しさに、俺は彼の死体を抱きしめる。あぁ、でも彼一人だと可哀想だ。ならば。

「俺もすぐ行く」

 包丁を彼の体から引き抜いて、自分の心臓に突き刺した。別に何も怖いことなどない。別に何も悲観することなどない。唯々、嬉しい。それだけだ。


 ニュースでとある学校の事件が流れている。何でも、男子高校生二人が死亡したとのこと。警察の調べで、片方の遺体が被害者でありもう片方の遺体が加害者であることが判明した。

 クラスメイト達からの話によると、彼らは友人で仲が良かったらしい。盗聴器も見つかっている。

 専門家の男が何やら述べている。加害者は被害者に相当な恨みがあって殺す準備をして殺した。そして、捕まるくらいならとのことで自殺したんじゃないか。


 本当の真実など誰も知ることはないだろう。全ては狂った少年の心のみ語る。

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真相は黙して語らず 大福 黒団子 @kurodango

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