第40話 入隊試験-12

「アワイ、どうやってここまで来たんだよ」

「どうとは?」

「初めて来た場所だし、通路も入り組んでいただろう?」

「簡単なことでございますよ。ある程度は主様の居場所を把握できますから」

「そっか。て、アワイ、あんまり触って壊すなよ。すげぇ、高そうだし壊れて弁償って流れになったら大変だ」

 草や蔓が絡み合った紋様。王間の扉だ。国宝級の一品かもしれない。

「これは代えの利かぬ一品でございますよ。以前ここにあった金細工が施された豪奢な扉よりも何倍も価値があるものにございます」

 以前? てことはアワイはこの王宮に来たことがあるのか。そう言えばアワイの過去については聞いたことがなかったな。


「そろそろ、参りましょう」

「でも、ここでひれ伏して待機って言われたんだけど。俺はてっきりそれが礼儀作法だって思っていたんだけど」

「そのような作法があるとは聞いたことはございませんが……。どうやら、あの痴れ者どもは履き違えているようにございますね」

 アワイの表情が険しくなる。もしかして、俺は嫌がらせをされたのか。洒落にならないぞ。結果的に王族を待たせているわけだ。それだけで不敬罪とかになるんじゃないのか。

 もし、即処刑とかになったら、化けて出てやるからな。

「主様、少し時間を頂けるのであれば、痴れ者どもの首をお持ちしますが」

「……いや、遠慮しとくよ。あいつらにだってきっと理由があったんだろう」

 そうさ、決めつけは良くないよな。もっと、俯瞰して物事を捉えないと。どんな理由にせよ、俺の置かれている状況は最悪だけどな。


「理由にございますか……」

「何か思い当たることがあるのか?」

「主様がお望みであれば、お話致しますが……。あまり、気分の良い話ではありませんよ」

「どんな現実でも受け入れてみせるさ」

「では、手短に。この扉は王子が戦災孤児たちと共に作り上げた代物なのでございます。亡き王子と私は契約を交わしておりました。王子は人格者であり、国民から慕われておりました。詰まる所、主様は王子の遺品を奪った簒奪者として捉えられているわけでございます」

 お涙頂戴の良い話だ。よっぽど愛されていたんだな王子様は……。その人気に反比例して俺の印象は悪いわけだ。マイナスからのスタートなんてハードルが高過ぎだ。それにしても、直接言ってくれればいいのにな。王子の作った扉の前で土下座させるとか陰湿すぎるだろう。

「家臣がそういう態度なんだから、国王とかも相当怒っているのかな?」

「どうでございましょう。王子の死と同時に私は休眠に入りましたから」

 考えていても不安が膨らむだけだ。さっさと、用事を済ませてしまおう。

 扉を押す。

「あれ、開かないぞ?」

「主様、引くのでございますよ」

 さっそく出鼻を挫かれた。足りない覚悟は度胸で補充しよう。

 いざ、参る。いでよ、ツンデレ女王、ロリ姫!


 扉を勢いよく開け放つ。

「たのもー!!」

 とりあえず大声で叫んでみた。

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