第41話 入隊試験-13

「私を待たせるくらいだ、もっと、気骨のある偉丈夫を想像していたんだがな。まさか、恐い物知らずの若輩とは」

 藤黄色の長髪を後ろで束ねた女傑が、身に着けたサリー型のドレスを煩わしそうに揺らしている。王冠は装備していなが、煌びやかな装飾品からみて王族に違いはないだろう。

 でも、まだ若いな。二十歳くらいだろうか。整った目鼻立ちにすらりと長い手足。これだけの美人だ。国民からの支持率も高いんだろうな。

「久しいな」

「あのお転婆なヒラール姫が、立派になられて……。時の流れを感じずにはいられませんね」

 アワイが微笑んだ。やっぱり王族しかも姫。あとはツンデレかどうかだが……。


「ずいぶんと雰囲気が変わったな。昔のそなたは兄王様以外には興味がなかった」

 一瞬だけどヒラール姫の青い瞳が揺れたような気がする。

「そうでございますね。主様と契約して私は変化いたしました」

「そなたは兄王様に忠誠を誓ったのではなかったのか?」

「シュルーク王子と共に過ごした記憶は、ちゃんと心に刻まれております」

 アワイが慈愛に満ちた表情をする。

「所詮は人外。裏切りは得意分野だったな」

 どうやらアワイは責められているらしい。アワイだって王子が死んですごく苦しんだに違いない。大切な者を失って心を痛めたはずだ。ずっと、忠義を忘れるな? ふざけるな。

「王族か何だか知らないが、文句があるなら俺に言えよ。どんな責苦だって笑って受けてやる」

「礼儀を知らないようだな、若輩」

「言っとくが俺の方が年上だからな。そっちこそ敬語を使え」

 傲慢姫が俺をねめつけてくる。売り言葉に買い言葉。これは極刑確定かな。


「はぁははぁははっ」

 姫が急に笑い始めた。

「デアよ。そなたの主はおもしろいな。外見こそ似ても似つかないが、どこか兄様を彷彿とさせる」

「シュルーク様に代わって、主様が私を呼び覚まして下さいました。また、こうして会えるのも主様のご尽力あってのこと。私は主様に絶対の忠誠を誓っております」

「そうか。きっと、兄様もそなたの変化を快く思ったことだろう。私も再会できたことを嬉しく思う」

 何だ。ヒラール姫は良識持ちの美姫じゃないか。身構えて損したな。

「俺は神代栄太だ。よろしく」

 ヒラール姫に近づいて右手を差し出した。友好の握手、これで終わりだ。

「その手は何だ?」

「何って仲直りの握手だよ」

 もしかしたら握手って習慣がないのかもしれない。

「悪いが、その手は取れない」

「え?」

 不穏な空気が漂い始めた。

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