第39話 入隊試験-11

 俺は唐草模様の細工が施された扉の前でひれ伏している。鎖の拘束からは解放されたが、交換条件として頭を垂れることを強要されている。

 

 かれこれ一時間くらいこうしている。一人であれこれ考えていると心の奥底から怒りがこみ上げてくる。やり場のない怒り、無様な自分に対する嫌悪感。俺が自身を責め立てているそんな錯覚に陥りそうになる。

 こんなことをしている場合じゃない。漠然とした焦燥感が精神に負荷をかけてくる。異世界にきて初めての現象だ。単にこれまで自問自答をする時間がなかっだけか。自分で思っていたより内面がぐちゃぐちゃになっているらしい。

 俺と言う人格は積み上げてきた記憶の上に成り立っていたはずだ。記憶の混濁と欠損。鮮明に思い出せるのは就職活動をしている時期の記憶だけだ。家族のことにしたって朧げにしか思い出せない。これ以上ごちゃごちゃ考えていると戻れなくなりそうだ。

 今は、目の前の珍事に集中しよう。



 この扉の向うには王様がいるらしい。やはり王冠とかを頭に乗せているのだろうか。もしかしたら、女王かもしれないな。俺は気の強いツンデレタイプを所望する。いや、待てよ見た目ロリの女王とかが出てくる可能性も……。下らない思考だ。

 兵士の気配感じないし、いつまでこうしていればいいんだ。そもそも俺はバリーク国民ではないわけで、見ず知らずの国王に迎合する必要なんてあるのか。

 俺は別にここの国王様から何らの恩恵を受けてはいない。何だか馬鹿らしいな。「お前は悪いことをした」て言われて、成り行きでここまで来たけど、俺が一体何の罪を犯したて言うんだ。

 そりゃあ、重要な拠点が機能不全に陥ったことは認めるけど、アワイを勝手に利用していたのは連中のほうじゃないか。さっさと王の間に乗り込んで話をつけてやる。



「その怒りは誰に向けられたものでございますか?」

「アワイ、どうしてここに?」

 アワイが扉の彫刻を指でなぞっている。アワイとガブとは途中で引き離された。王宮はだだっ広く、入り組んだ構造になっているため合流は至難の業だと考えていたくらいだ。

「焦っても何も好転はいたしませんよ」

「俺は別に焦ってなんか」

 俺って感情が顔にでやすいのか。

「御身を恐れないで下さいませ。主様が殺戮者になろうとも私はずっとそばにおりますから」

「殺戮者って、俺はただの無職だぜ。失くしている記憶だってきっと大したもんじゃないさ」

「心に刻み込んだ想いは決して消えはいたしません。主様の記憶は毒にも薬にもなる代物でございます。そのことを努々お忘れなきよう」

 アワイが微笑む。話していたらだいぶ楽になった。

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