第37話 入隊試験-9
「あのさ、ソールはどうして軍人になりたいんだ?」
「急にどうした」
「いや、ソールのこと何も知らないからさ。友人として色々知りたいというか……」
言葉に詰まってしまう。
「私も興味がございます。ソール殿はバリークの民ではないのですよね?」
「広義の意味では俺はバリーク国民だと思っているけどな」
「ソールハタイヨウノタミ」
「太陽の民?」
「シャムス族。白神が眷属ーー神狼と共に生きる部族でございます」
「やっぱりソールは主人公だったのか」
俺の考える主人公像。特別な出自、何だかんだ言っても結局はお人好し、特別な力を有している、可愛いヒロインの存在などなど。上げればきりがないが、ソールはいくつかの条件を満たしている。
「俺は普通の人だよ。シャムス族だって他の部族と大差ない暮らしをしていたしな」
もう主人公にしか見えない。今後、美少女や美女を助けまくってハーレムを拡大していくに違いない。そうなると俺のポジションは引き立て役の友人キャラか。一応は、年上だから知的な先輩キャラとか……何か途中で死にそうだ。それに今は年下として扱われているしな。よし決めた。あまり役たたない弟分でいこう。そして、ソールがピンチの時に実は年上ですって宣言して事態を収拾してみせる。最高のサブキャラ。そこを目標に頑張ろう。
「ありがとな、ソール。俺みたいな無職を助けてくれて!」
テンションがあがるな。主人公一行に加われるなんて夢が一つ叶った。
「しかしながら、ソール殿。たしか、シャムス族はーー」
「栄太、俺が軍人になりたい理由を聞きたいんだろう?」
ソールがアワイの言葉を遮た。一瞬だけど、ソールの目付きが鋭くなったように見えた。
「一番の理由はインシジャーム砂漠の平和を守りたいからだ。色々な部族がいて争いもあるけど、俺はここが好きだからさ。月明かりに青白く照らされるインシジャーム砂漠ほど美しい光景を俺は目にしたことがない」
主人公としての模範解答だ。俺とは精神構造が違っている。面接の時とかは繕いまくった志望動機を言い連ねるけど、結局は付け焼刃。手練れの面接官には化けの皮をすぐ剥ぎ取られた。
「栄太、どうだこの入隊希望動機は? 少し嘘くさいか」
「いや、ぐっときた。て、嘘なのか!」
ソールがニヤリと笑った。
「無知な子供の頃は『俺が全てを守ってやる』なんて考えていたけどな。ある程度大人になって自分の力量とかを把握できてしまったからな」
「実際の理由は?」
「バリーク正規兵の安定した給与。フェンは大食いだから食費もばかにならない。家族にひもじい思いはさせたくない。それに兵士なら実力さえ示せればフェンも一緒に働けるはずだ」
「ソール殿は、自己評価が著しく低いのでございますね。シャムスの神獣使いであれば他国でも引く手数多でしょうに」
「俺は落ちこぼれだからな」
ソールが笑った。
その後、自然な流れで夕食はお開きになった。結局、商会の話は切り出せなかった。ただ、安定した給与を提示できればソールは説得できそうな気がする。まずはアワイに知恵を絞ってもらってプランをたてよう。ソールに話す前に、フェンリルに賄賂を贈るのもいいかもしれないな。バリークについたら骨付き肉を買わなければ。
「主様」
鼻歌交じりに食器の片づけをしているとアワイが話かけてきた。ソールとフェンリルは辺りの見回りに出ていていない。
「どうした」
「主様はお気づきになりましたか?」
「何を?」
「ソール殿が漆黒の感情を抱えていることにございます」
「……いや」
「お優しのですね、主様は」
「意味不明だぞ、アワイ」
「これでだけは申し上げておきます。私は主様の従僕であり人外の化物です。もし、ソール殿が主様を害すると判断した時は何の躊躇いもなくーー」
「ストップだ、アワイ。仲間を疑うなんて最低だぞ」
「しかし」
「一つだけ言っておく。俺のアワイは血も涙もない化物なんかじゃない。ちゃんと心があって良心に従って行動する。そうあってほしい」
「それが願いであるならば、無下にはできませんね」
「ささっと片付けようぜ」
「はい、主様」
どんなことがあっても俺達は仲間だ。その気持ちさえ失わなければ俺は前に進める。
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