第36話 入隊試験-8
薪が燃えて火の粉がはぜる。みんなで焚き火を囲んで座っている。
「美味いな。アワイさんの料理は絶品だ」
「イイオヨメサンニナレル」
ソールはすでに三杯目のシチューを平らげようとしている。フェンリルは砂漠ウサギの丸焼きを美味そうに頬張っている。
「主様、お口に合いませんか?」
「いや、美味いよ。ただ、俺は小食だからさ。一杯で十分なんだ」
「そうでございますか」
アワイが少しがっかりしたように言う。
そんな態度を取られたらお代わりを要求せずにはいられない。無理やり薄味のウサギ汁を口に詰め込む。
少し臭みはあるけど柔らかくて不味くはない。ただ、食べなれていないせいか物足りなさを感じてしまう。
醤油か味噌を投入したい気持ちに駆られる。まぁ、俺は舌がバカらしいからな。作り甲斐がないてよく怒られたし……。
誰に?
「主様?」
「んんっ、どうした」
「考えごとでございますか?」
「何でもないさ。ただ、楽しいなって」
「楽しいでございますか?」
「何かキャンプをしているみたいだと思ってさ」
「キャンプとは野営のことにございますか?」
「そうだよ。家族とか友達とかとする旅行の一環みたいなものかな。まあ、孤高の求職者栄太さんには友達とかいなかったから実際には経験したことはないけどさ」
「ボクタチトモダチ?」
フェンリルが砂漠ウサギの骨を加えてこちらにやってくる。
「アゲル」
「……ありがとな」
フェンリルの頭を撫でてやる。それをソールが満足げに見ている。アワイもどこか楽しそうだ。
膝の上に抱えているガブから温もりを感じる。ガブは湯たんぽ代わりになりそうだ。異世界にきて怖いくらい物事が順当に進んでいる気がする。
このままこのメンバーで旅とかできたら楽しいだろうな。ふと、商才逞しい俺は名案を思いついた。みんなで商会を立ち上げるのはどうだろうか。
ソールは頼りになるし何かと情報通だ。フェンリルは荷物を運べるし、マスコットキャラクターとしても申し分ない。当面はアワイに水を提供してもらってインシジャーム砂漠に水革命を起こす。
ここで地盤を固めて、他の分野にも手をだす。余裕ができたらガブを故郷に連れて行けばいい。そうだ。これなら無職ってレッテルを貼られることもないはずだ。
まずはソールの説得から始めよう。
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