第33話 入隊試験-5
スカ、スカ、スカ、スカ、スカ。
宙に浮かぶ火蜥蜴をねめつける。
「やるじゃないか」
火蜥蜴が俺をおちょくるように近づいてきた。咄嗟に伸ばした右手が空を切った。
こうなれば体力勝負だ。どちからかが力尽きるまでいたちごっこを続けようじゃないか。
それにしても今のままでは勝機は薄いな。知恵を絞らなけらば……。
「降参だ、降参。お前だって勝手に人間に捕獲されて、ライター代わりにされてきたんだもんな。好きな所に行けよ」
近くにあった小岩の上に腰かける。また、火蜥蜴が近づいてきた。
「どうした? 故郷の家族に会いたいだろう。……俺のことは心配しなくて良い。ソールは好青年だから笑って許してくれるさ」
実際、ソール達はどう反応するだろうか……。
『本当に栄太は使えないな奴だな。絶交だ絶交』
『ゴミクズ。シャカイノゴミハボクモダベナイ』
『主様、私は悲しく思います。そんな様では一生無職にございますよ』
ああああっ。俺のただでさえ低い評価が、ついにマイナスの域に達してしまう。落ち着け、落ち着くんだ。これは作戦だろう。
火蜥蜴が背後の警戒を緩めた瞬間に、見事にキャッチして即座に瓶に押し込むという完璧な作戦。
「…………」
パタパタと羽ばたく音だけ聞こえる。フェンリルのように人語が理解できているかどうかは怪しいけど、この火蜥蜴からは確かに知性を感じる。
「ほら、早く逃げろよ。俺の気が変わらない内にさ」
あんな小さな瓶の中に閉じ込めておくのは良くないと思う。薄っぺらな愛護精神。この世界の常識も知らない俺の愚かな行為。誰も褒めてはくれないだろう。でも、俺はこの火蜥蜴が自由に羽ばたいている姿をもっと見ていたいと思う。だからこれは俺の自己満足。頑張って金貨百枚を稼ごう。
ヒラヒラと手を振って、逃げるように指示する。火蜥蜴がこれまでにないほど接近してきた。
そして、俺の指先に触れた。
『ガブリッ』
そんな擬音が聞こえたような気がした。人差し指を噛まれた。恩を仇で返してきやがった。
ブンブンと手を振りまわして何とか拘束から脱する。よかった指先はちゃんと残っている。
小さな噛み傷から血が流れ出してくる。確か、コモドドラゴンとかに噛まれると口の雑菌で傷口が化膿して、高熱がでるってテレビで見たことがあるな。
テレビっ子の栄太さんは思ったものさ。オオトカゲとかに遭遇するってありえなくねぇて。無駄な雑学も異世界では役に立つんだな。
とりあえず、消毒しなければ。荷物の中に濃度がバカ高い酒があったはずだ。それを口に含んで傷口に吹きかける。そのプランで行こう。
「あれ?」
火蜥蜴の様子がおかしい。身体から煙が立ち込めている。そして、突然の発火。
火だるまになった火蜥蜴が地面に墜落した。
「熱ッ!」
すごい高温だ。発生源である火だるまが徐々に大きくなっていく。
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