第32話 入隊試験-4
嘘だろう……。まさか死んでいる!? 第一発見者が疑われるのが世の常だ。
蓋を剥がして、火蜥蜴の小さなお腹をさする。ピクリとも動かない。
「主様、火の準備はどうでございますか?」
岩の向こうからアワイの声が聞こえてくる。見られていなくて、本当に良かった。
「もう少しだ。アワイ、少し教えてほしいんだけど、金貨一枚ってどれくらいの価値があるんだ?」
「やぶからぼうでございますね。金貨一枚は勤勉な商人が一か月で稼げる金額くらいかと」
商人の収入がどんなものかわからないからイメージしずらい。十万単位なのは間違いないよな。百万単位ではないことを願おう。
「あのさ、アワイさん。火蜥蜴って金貨一枚で買えるんだよな。ここら辺で調達は可能ですか?」
「金貨一枚で火蜥蜴を買う? ご冗談はおよし下さいませ。それは数年前の底値でございますよ。もともと個体数が少なかった上にに常人種が安易に乱獲したせいで、絶滅が危惧されているのでございますよ。それにこのインシジャーム砂漠では太陽を運ぶものとして崇められいますので購入は難しいかと。金貨百枚を持って闇市場に潜ればあるいは……主様、もしかしてーー」
「あっ、あの、あのさアワイさん、僕は少し散歩に出かけてくるよ」
アワイが何やら話を続けているが聞こえない。聞きたくない。
瓶に布を被せて、月明かりに照らされはじめた砂漠に足を踏み入れる。
一キロくらい進んでから、瓶を地面に置いた。
「もう一度だけ、確認しよう」
瓶から体長15cm程の火蜥蜴を取り出してみた。よく見れば小さな羽が背中からせり出している。
変温動物は周りの気温により活動が左右される。もしかしたら、気温の下がる夜中は休眠する習性があるのかもしれない。
両手で包みこんで、優しく擦る。これで目覚めてくれなければかなり焦る状況だ。金貨一枚が十万円だと仮定したとしても、×100だから一千万円。
まだ、異世界に身を投じて一週間も経っていないのにそんな負債を抱えたのでは、これからの異世界ライフは暗礁に乗り上げたも同然だ。
「おっ?」
火蜥蜴の身体から熱を感じる。
「熱ッ!」
突然の高温に耐えきれず反射的に手を放してしまった。地面に着地した火蜥蜴がパタパタと羽を広げて舞い上がった。
このままでは逃げられてしまう。身体をしならせ猫じみた動きでキャツチを試みる。スカ、スカ、スカ。俺の努力をあざ笑うかのように寸前のところで避けられてしまう。
さっさと遠くに逃げないあたり相当俺を見下しているようだ。人間様の本気をみせてやろうじゃないか。求職者を舐めるなよ。
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