第31話 入隊試験-3

 ソールが帰ってきたのは、夕暮れ時だった。香草や干し肉などの食料を持参して帰ってきた。

「ソール、疲れてないか?」

 毎日、定例報告ー俺が逃げていないかを兵士に伝えにいっている。一度、バリークに近づいて、また戻ってくるわけだ。無駄な体力を使わせてしまっている、それに食糧調達や寝床の確保までソールがこなしている。年下なのにソールはかなりの働き者だ。

「大丈夫だ。俺は辺りの様子をみてくるから、その間に栄太は火をおこしておいてくれ」

 ソールは周辺の偵察に出かけた。砂嵐とか大型の肉食獣とか夜の砂漠は危険で溢れかえっている。テントとかないしな。



「アワイ、手伝ってくれ」

 大役を仰せつかったのだ、見事こなして役にたつところをアピールしなければ。

「主様、私は水属性にございますよ。火おこしには適しておりません。それに今は手がはなせませんので」

 アワイが袖をめくりあげて、たすき掛けで留めている。手には小型の刃物が握られている。

「……ボク、モウイッカイイッテクル」

「下拵えはまかせて下さいませ、フェンリル殿」

 フェンリルが寝床ーー岩場から離れて薄暗くなりつつある砂漠に消えていく。

「なぁ、アワイ。フェンリルはどこに行ったんだ?」

「ソール殿のために食材を狩りに行ったのですよ。どうやらこのあたりは砂漠ウサギが群生しているようですから」

 アワイの足元にピクりとも動かな小動物が置かれている。長い耳に、灰色の毛並み。愛玩動物に分類しても遜色ないフォルムをしている。

「これを食べるのか?」

「少し、臭みがありますが香草と一緒に煮込めば。絶品シチューの完成にございますよ。どういたしました、主様?」

「いや、この状態のウサギを見た後に、食すのは少し抵抗があると言うか……」

「でしたら、干し肉でもう一品お作り致します」

 干し肉だって、元をただせば生き物なんだよな。これまで、加工された肉を当たり前に食べる生活をしていただけで……。

「ごめん、変なことを言って。アワイのシチュー楽しみしているからな」

「その意気ですよ、主様。少しずつ適応して行けばよいのでございます。私はずっと主様の隣にいますから」

「じゃ、アワイ、火をおこしてくるから」

 

 

 荷物置き場に向かい、革袋を引っ張りだした。この異世界にはライターやマッチなんてものはない。火打石はあるが、コツが必要で素人の俺には使いこなせない。

 石を粉砕して終わりだろう。そこで重宝されるのが火蜥蜴だ。なんでも専門店で金貨一枚程度で買えるそうだ。大事に使う? 飼えば十年くらい生きるそうだ。

 この二日間、ソールは火蜥蜴を使って、ものの数秒で火をおこしていた。やっと回ってきた大役だ。失敗はできない。

 昼間の内に集めておいた低木の枝を交互に組んで火蜥蜴で着火するだけの簡単お仕事だ。革袋から布で蓋をされた瓶をとりだす。

「あれ?」

 火蜥蜴が仰向けになってぐったりしている。

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