第30話 入隊試験-2
野宿も今日で三日目だ。思っていたよりも快適なのであと二日くらいなら我慢できそうだ。オアシスを出発する際、俺は選択を迫られた。
とある砂漠の王国ーインシジャーム砂漠のバリークに連行されるか、無責任に逃避行を決め込むか。
あのオアシスはバリークにとって重要な拠点だったらしい。行商人の補給拠点としての側面と王国軍の駐屯地としての役割を担っていたらしい。
アワイが具現化したことで水源は絶たれ、オアシスは機能を維持できなくなった。アワイの力で当面の水を残してきたものの一年も待たずにオアシスは終焉を向かえるだろう。
俺達を攻撃してきたのは王国軍で、アワイを休眠状態にすることを目的にしていたらしい。なんでも、アワイはバリークの所有物だったらしい。それを聞かされたアワイは激高した。
『私は主様の所有物にございます。これまで散々、私を利用してきたことは目を瞑りましょう。しかしながら、これ以上私を縛ると吐き捨てるならば、水死体になることを覚悟いたしませ』
そんなことを冷淡な口調で言うものだから、俺まで怖がられてしまった。ただ、はいそうですかと言うわけにはいかない。結果的に、王国の拠点を潰してしまったのだから誰かが責任をとらなけらばならない。
王国まで来てほしいと頼まれた。そして、国王の前で弁明してほしいと懇願された。
アワイは俺の好きにすれば良いと答えた。仮に追手がきても何回か抹殺すれば、いずれはあきらめるだろうと笑いながら言った。
お尋ね者になるのは嫌だし、何よりソールに迷惑をかけるは論外だ。ソールは王国軍の入隊試験を受けるためバリークに向かっていたらしい。
このオアシスで最終的な募集要項を確認して、試験会場であるバリークに赴く予定だったそうだ。つまり、俺が逃げればソールの入隊は絶望的になるわけだ。それどころか、共犯者として追われる身になるかもしれない。そんな恩を仇で返すなんて社会人失格だ。だから、俺はソールと一緒にバリークを目指すことにした。
監視役として数人の兵士が同行することになったが、出発してすぐ別行動をしたいと進言された。監視役の兵士はみな若く、アワイに恐れを抱いているようだった。
結局、兵士たちが先に進み、伝令役をソールが務めることになった。ソールが後輩になる予定だから、兵士たちはソールに対しては横柄な態度をとった。その様子に不満を持ったフェンリルが低く唸ってみせると兵士たちはすくみ上った。
ソールの道案内は適切で、夜の寒さもフェンリルのモフモフがあれば恐くない。さらに、アワイがいれば水不足に困ることもない。旅路はすこぶる順調だ。一つ気がかりなことがあるとすれば、俺が全く役に立っていないことだ。
役立たずの無職。そんなレッテルを自分に貼り付けてしまっている。せっかくの異世界ライフだ。一刻も早く職を見つけよう。
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