第26話 水の大神と神代家長女 その四

 兎にも角にも情報収集をしなくては始まらない。私が有している知識は組織が収集したものに過ぎない。

 その情報源は『異界見聞録』という書物だ。伝説の神代家当主が持ち帰った情報をその弟子たちが編纂したと言われている古文書。

 その中で境界番や転生のことが触れられている。死生観を大きく揺るがす内容も含まれているため、一般人にはその存在が秘匿されている。

 しかも新参の異界守には内容が開示されていない。それはもっともだと思う。こんなテクノロジーが発展した時代に、信憑性もあいまいなソースを元に命懸けで戦えと言われて「はい」と即答できる愚者は希少だろう。

 中には一握りの幹部しか知りえない情報があることもわかっている。色仕掛けで迫ってもついには口を開かなかった。きっと、それは異界守のあり方を根本的に覆す情報なのだろう。

 今の窮地は見方を変えれば好機にもなりえる。ここで直接、情報収集すれば上層部の裏をかける。ものによっては交渉材料にすら成り得るかもしれない。

 栄太と凛を狂った呪縛から解き放つ。それが私の最終目的。運命だろうが宿命だろうと関係ない。そんなものは全力で拒絶する。私は姉として弟たちを守る義務があるのだから。

 


「それにしても、いつになったら辿り着けるのやら」

 体感覚では一里くらいは歩いたつもりなのだけれど……。

 神と呼ばれる程の存在だ。そう簡単に会えるとは考えていなかったが、ここまで無反応だと少し焦る。

 事前に仕入れた情報によれば、神は確かに存在するが人と神の間には大きな隔たりがあるらしい。

 だから、この大神殿までの道のりはすぐにわかったけれど、ついには直接神に謁見した人には会えなかった。


 神、ドラゴンを筆頭にするファンタジーなモンスター群、転生者その他多数。見当違いの方法で情報を探れば大きなタイムロスにつながる。

 それこそ残りの人生すべてを使っても全てを調べ尽すことはできないだろう。必要とする情報を限定して、大まかに取捨選択を繰り返す。それが最短の道だ。

 知るべき情報は二つ。一つはどうして害魔が送り込まれてくるのか。原因がわかれば対策が練れる。もう一つは転生者についてだ。神隠し被害者が元の世界に戻ることができるのかどうかで今後の対応が変わってくる

 神であるならば解を持っている。そう期待して、単身乗り込んできたわけだけれど、私の侵入を容易に許している時点で的外れだったのかもしれない。



「ずいぶんと思いあがったことを考えているじゃないか」

「はっ!?」

 一瞬で、景色が変化した。白い柱が等間隔に並んでいて、大理石の床がどこまでも広がっている。

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