第25話 水の大神と神代家長女 その三

 完全に後手に回っている。栄太が一般人でいるために、私と凛は相当無茶な任務をこなしていた。失敗すればすぐにでも栄太が呼び戻されてしまう。それだけは何としても避けたかった。

件の第96次異界防衛戦線における配置もかなりの無理があった。私と凛、そして新人一人。それに対して守るべき対象は十二人。その中には天歌家のご令嬢の姿もあった。完全に策略にはまった形だった。

 私ごときの若輩を欺くのは上層部の巨魁にはさぞ容易いことだっただろう。上層部は以前から防戦一方の戦局を打開したいと考えていた。ただ、異界は未踏の地であって、容易には侵入できない。兵士を送っても境界番という存在によって無理やりに転生させられてしまう。この百年の間に何度か遠征が試みられたが、ことごく失敗に終わったと閲覧禁止の記録資料で読んだことがある。



 到達できる可能性があるのは神代の血を継ぐものだけ。そんな噂がまことしやかに囁かれていた。これは何代も前の神代家当主が異界に赴き、帰還したとう伝説に起因するものだ。

 上層部は栄太を異界に送り込むことを検討していた。ただ、最大戦力を失うリスクと天秤にかけて先送りにしていた。だから、私は自ら志願した。


『私だって神代のはしくれです。それに私の能力があれば転生せずに異界に到達できる』

 上層部のお歴々の前でそう何度もプレゼンした。色も金も欲も使えるものは何でも使って、上層部の派閥争いをも利用して何とかチャンスを掴んだ。

 そんな矢先に、第96次異界防衛戦線の火ぶたが切って落とされた。


 結果は、惨敗。十二人の警護対象の半数が消失、残りが異界に引きずりこまれた。比較的軽傷だった新人が青い正義感から異界門に飛び込んだ。

『ロザリー姉様、私は彼を追います。天歌さんの安否も気になります。このままだと、お兄ちゃ……劣化お兄様に顔向けできませんから』

『凛、アンタ一人で行かせられるわけがないでしょう。二人で連れ戻すわよ』

 結局、天歌サクラを連れ戻さなければ栄太が異界に向かう可能性が高い。少し悔しいけれどサクラちゃんは栄太にとって特別な存在なのだ。

 栄太はそれを忠誠心だと言い張っているけど……。



 結果的に私と凛は境界番に接触して、異界に到達した。サクラちゃんの安否はわからず、新人君の所在も不明。

 凛は、新人君にずいぶん肩入れしていた分ショックが大きく。境界番に力の半分を奪われたこともあってとても戦える状態ではない。

 だから、私が栄太の日常生活を守るために事態を早々に収集しなければならないのだ。

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