第24話 水の大神と神代家長女 その二
第四位は実質的な最上位。昔の栄太は『鬼神』として組織内で恐れられていた。常に合理的に立ち振る舞い、数多の命を救って、多くの命を切り捨てた。
鬼神として完成させられてしまったのは第32次異界防衛戦の時だろう。栄太が任務で潜入していた中学校が害魔の襲撃を受けた。
私が駆け付けた時には全てが決着していた。返り血でYシャツを真っ赤に染めた栄太が校庭の真ん中で立ち尽くしていた。数百の生徒が栄太を怯えた表情で見ていた。
『ネエちゃん、俺さ……守れなかったよ』
栄太がまだ幼さの残る顔を歪めた。今にも泣きそうな年相応の表情。
『泣きなさい。悲しい時に泣かないと心が壊れてしまうわよ』
栄太は、私にしがみついて嗚咽をもらした。私はよしよしと頭を撫でた。
『……俺さ。全てを守れる気でいたんだ』
『栄太は、すごいわよ。こんなに大勢を救ったじゃない。お姉ちゃんの自慢の弟よ』
栄太がゴシゴシと目を擦って、自分が救った生徒達を見遣った。
その視線に全く熱がこもっていなかったことにその時の私は気づかなかった。
数日後、第32次異界防衛戦の報告書に目を通した私は愕然とした。
犠牲者は、1年D組の生徒数名。彼らは栄太のクラスメイトだった。
栄太が一人で対峙したのは『黄昏の使徒』と呼ばれる最上位個体だった。今まで何人もの異界もりが迎撃に失敗してその命を散らした。ただ、それ程の害魔だ。ある程度出現パターンだって予測できるし、前兆だってあったはずだ。
吐き気がした。全ては策略。もっと早く気付くべきだった。修行という大義名分を掲げて、これまで学校から遠ざけていたのに、突然、中学に栄太を通わせた。
あの人だって人の親だったのだと嬉しく思った。これから少しづつ普通の家族みたいになれるんだって希望を抱いた。
全てが嘘偽り、栄太を完璧な兵器として完成させるための布石。あれから栄太は笑わなくなった。私と話している時は、昔の自分を演じていたけれど……。
私は心に誓った。栄太と凛を守るためならどんなことでもやろうと。いくら手が汚れようが、人に恨まれようが関係ない。私は二人を守るためなら喜んで命すら差し出す。
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