第15話 異世界求職者-11

 どうする。どうする。防御なんて論外だ。射程外に脱出する。それだけだ。クラウチングスタートを決め込む時間はないが、短距離走選手並みの加速が求められる局面だ。

「あっ」

 二歩目でつまずいた。服がびしょぬれだったのを失念していた。

「仇敵様、何をなさっているのですか?」

「そっとしといてくれる」

 もう逃げられない。あとは自分の運を信じるのみだ。

「……」

 一向に矢が到達する気配はない。

「仇敵様、私は理解に苦しみます。何故、慌てて空回りしているのでしょうか。この程度の攻撃など直撃したところで大事に至ることもないでしょうに。とりあえず受け止めはしましたが…」

 でました人外のトンチンカンな発言。まあ、助けてくれたみたいだから文句は言わないけどさ。いつまでも突っ伏していても格好がつかないのでゆっくりと起き上がる。

「おっ、イッツアファンタジー」

 思わず声が漏れてしまった。半球形の障壁が矢を受けとめている。水のバリアか、すごく滾るな。ただ、一つだけ気になることがある。矢がジリジリとバリアを貫通しようとしているように見えるんだが……。

「何らかの加護が働いているようですね。……黒神の力をねじまげて解釈しているわけですか。本当に質が悪い」

「えっと、このままだとどうなります?」

「人の身であれを受ければ絶命は免れません。しかしながら、あれに私達を害する程の力はありません」

「俺はただの無職なんですけど…」

「ムショクとはさすがと言わざるを得ませんね。私は栄養補給をしなければこの姿を維持はできませんから」

 絶対的に噛み合っていない。少し格好悪いが気持ちを素直に伝えたほうが良さそうだ。

「助けて下さい」

「何故、仇敵様は矮小な私に願うのですか?」

「こんな所で死ねないからだ」

 こんな得体の知れない場所で死んでたまるか。それに良くは思い出せないけど、この世界でやるべきことがあるような気がする。

 漠然としていて得体も知れないけど、確かに心の奥底にある強い想い。

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