第14話 異世界求職者-10

「痛てててっ」

 手の平から伝わってくる砂の感触はサラサラしている。どうして湿っていないのだろう。

 そんな疑問を目の前の不思議物体が説明してくれるんだろうか。


『ツイナルカミ、ワガシンメイニカケテ、ナンジヲ』

 俺の瞳に映っているの半透明な女だ。

 煽情的な体のライン。整った顔立ちは無表情で機械的な印象を受ける。

 水妖ーウンディーネ。まさに、そんなファンタジーの産物が俺の前にいるのだ。

 頭の回路がショウトしそうだ。フェンリルはまだ巨大なワンコって括りで処理したけど、これは完全のキャパオーバーだ。

『ツイナルカミ、ワレハナンジヲ』

「ちょと、タンマ。常識人の栄太さんは今の状況を飲み込めないんだ」

 頭を抱えて目を瞑る。やっぱり、ここは異世界なんだ。しかも剣と魔法のファンタジー世界。すっ、すげぇ。だけど、思っていたより嬉しくないな。

 手放しで喜べるほど子供じゃないんだよな、残念ながら……。曲がりなりにも大人なので極端な非日常には拒否反応がでてしまう。どうしても現実というフィルター越しにしか物事を捉えられない。

 チラッとウンディーネを見やる。すげぇ、見られている。ど、ど、どしよう。


「……仇敵様、御戯れもそこまでにしてくださいませ」

「仇敵?」

 仇敵なんて日常ではまず使わない言葉だ。彼女はどうして俺を憎んでいる。理由は明白だけどね。

 要はあの宝石をぶっ壊したことを怒っているんだろう。誤解は早々に解かないとお互いのためにならない。

 恐る恐る顔を上げる。

「すみませんでした!」

 深々と頭を下げる。大人の本気謝罪。

「仇敵様、頭を上げてくださいませ」

 まだ、怒っているのか。これ以上の謝罪となると土下座とかになるけど、それはさすがに俺のプライドが許さない。

 方向転換だ。理由をきちんと話して俺に悪意はなかったと説明しよう。

 頭を上げる。あれ? ウンディーネの姿が変化している。藍色の長髪に、和装という出で立ち。着崩した水色の着物姿ということもあってコスプレっぽく見えなくもない。

 さっき程の姿よりは何百倍も接しやすい。

「自己紹介を致しましょう。私は水の大神メルクリウス様が七十七番目の娘ーー」

 ウンディーネが俺から視線を外して、宙を見据えた。

 その先にあるのは、飛来する無数の矢だ。数はざっと百本。

 放物線を描いて、こちらに降りそそぐ矢の雨。早々に回避行動を取らなければ絶命してしまう。

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