第11話 異世界求職者-7
一キロくらい泳いで光に接近する。
近づくにつれて光の波動は強くなった。正体不明の物体に惹かれてここまで泳いできたわけだが、急に頭が冷静になってきた。
フェンは水をたらふく飲んで満足したのか日向ぼっこをしている。仰向けになって姿はまさに犬だ。後で、無防備な腹をワシャワシャしてやろう。
キョロキョロと辺りを見渡す。目視できる範囲に動く物体はない。では、始めよう。ごつごつした石の台座の上に鎮座しているのは、球形の宝石。外見は占いとかで使う水晶に似ているけど、中で半透明な霧状なものが渦巻いている。
光り輝く玉石。どう見たって祭られている代物なんだろう。そんなものに不用意に触れたら天罰とかがあるかもしれない。それでも触れたい。慎重に台座に近づく。もう少しで手が届く。その瞬間、ヒュンと風切音が聞こえた。
台座に深々と矢が刺さっている。さっきまではなかった代物だ。悪い予感がする。咄嗟に後ろを振り向くと無数の矢が弧を描いてこちらに向かっている。
「絶対絶命か」
大きく息を吸い込んで潜水する。水中までは届くはずがない。そんなに深く潜らなくて大丈夫だろう。
『嘘だろう』
大半の矢は水面にぶっかった時点で威力が削がれ殺傷力を失った。しかし、何本かは衰えることなく俺目掛けてやってくる。
回避行動をとろうにも水の中では自由に動けない。後は運にまかせるしかない。
十本中三本が命中。その内、突き刺さったたのが一本。致命傷はなし。上出来じゃないか。右の肩口に突き刺さった矢に手をかける。
無理やり引き抜いたら、血が噴き出しそうだが、このままでは満足に泳げない。こう言うのは思い切りが大事だ。
『しくった』
水中に血の花が咲いた。失念していた。ここだけ赤色に染まっていたら居場所がばれてしまう。そろそろ苦しくなってきたし、でも、浮上した瞬間、ジ・エンドってパターンもありえるし。
こうなればフェンリルが異変に気付いて助けにきてくれるのを待つしかないか。籠城するにも息づきはしなけらば始まらないが……。
『うん? 何だ』
敵は次の一手にでたようだ。これまでの穏やかだった水中に水流が生まれた。どうやら、あの玉石を中心に渦を巻き始めたようだ。まだ、抗えるレベルだがこれ以上強くなったらヤバい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます