第6話 異世界求職者ー2

生暖かい感触を頬に感じる。微かに感じる獣臭。体が怠くて、うっすらと瞼を開けるのが精一杯だ。背中に重みを感じた。

「とりあえず、生きてるみてぇだな。どうだフェン、助かりそうか?」

「ガゥガゥガゥ」

「了解だ。ちょっと待ってろよ、すぐ水を飲ませてやるから」

 身体を仰向けにされて、半開きになった口元に液体を流し込まれた。急なことで盛大に咽てしまった。

「悪ぃ。ただ、水の残りはこれしかないんだ。ちゃんと飲んでくれよ」

 水? 反射的に起き上がり、目の前の革袋をひったくって、一心不乱に水を飲む。

「ゆっくり飲めよ。誰もとったりしないから」

 革袋の中身を飲みきってようやく、周りの状況を確認する余裕ができた。

「君は誰だ?」

 十代後半といったところだろうか、頭にはターバンを巻いており薄での生地でできた大きめな衣服を纏っている。まさに砂漠の民という感じの出で立ちだ。



「自己紹介は移動しながらでいいか?」

「あぁ」

 さっきからかなりフランクに話かけてくるが、初対面の年上に対して砕けた口調を駆使できる所から察するに、かなりコミュニケーション能力が高いのかもしれない。

 そんなつまらないことを考えていると俺の視界にありえないものが映り込んできた。

「……それは狼?」

 大きな犬型の生物こちらに近づいてくる。赤茶色と白で構成された毛並みは長くて、見るからに暑苦しい。

「俺の相棒のフェンリルだ。まだ、歩けないだろうからフェンの背中に乗ってくれ」

 確か、北欧神話にそんな名前の狼がいたような気がする。大人しくしているし、噛みつかれはしなだろうけど……。

「二人は乗れないんじゃないか?」

 確かに俺が知っているイヌ科の動物よりは大きいけど、大人二人を背中に乗せて疾駆できるとは思えない。

「俺は歩くから心配するな」

 さすがにその提案は受け入れられない。水を恵んでもらった上に、労力を強いるなんて社会人失格だ。

「年下にこれ以上は迷惑をかけられない」

「面白いな、お前。どう見たって俺のほうが年上だろう?」

「はあっ? 俺は今年で26歳だぞ」

「もしかして、暑さで頭をやられたのか? どう見たって15、6にしか見えないぞ」

 身体を確かめてみる。見覚えのあるTシャツとジーンズ。確かに16歳位の時に良く来ていた服だ。

 どうして、俺はこんな恰好をしているんだ。それに視界が少しだけ低い気がする。

「俺の部族だと年少者は年長者の言うことを聞くのが基本なんだぜ」

 そう強く言われてしまったので素直に従うことにする。

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