第5話 異世界求職者ー1

『大好きよ、栄太』

 

 重たい瞼をこじ開けた。青い空に、ジリジリと背中を焦がす熱い砂。

 ここはどこだろう? 上半身を起こして辺りを見渡した。

 視界がぼやけている。メガネ、メガネとうん? 俺は眼鏡男子ではなかったはずだ。

 ゴシゴシと瞼を擦ると液体で手が濡れた。

「……これは、涙? あれ、あれ、止まらない」

 どうして俺は泣いているんだ。理由がわからない。変な病気じゃなければいいけど。

「それにしてもここどこだよ」

 確か、就職活動をしていて、その後は……。

 頭に靄がかかっているようで気持ち悪い。こういう時は落ち着いて、そうだこう言う時こそ自己PRの練習だ。

 こんな奇妙な状況でも冷静でいられれば、俺はきっと社会人になれるはずだ。

 両足に力を込めて立ち上がる。

「ゴホン、ええっ。俺の名前は神代栄太。今年で26歳。今は無職で、特に特技なし。彼女どころか友達もいない社会の片隅に生息している無害なーー」

 うわっ!? そりゃ泣くよな。今思い返してみれば結構ヤバいな俺。

「……それにしても喉が渇いた」

 どうやらここのあたり砂漠のようだし、夜になれば急激に冷えるはずだ。

 目を凝らすと遠方に豆粒ほどの大きさだが緑が見える。

 とりあえずあそこを目指そう。まさか、蜃気楼でしたとかってことはないだろう。



 歩いても歩いても目的地は近づかない。もしかして、無駄に体力を消費しただけでは……。

 もう限界だ。もう就活なんて一生しませんから神様どうか哀れな俺にお水を御恵み下さい!

 それから、最後のあがきと言わんばかりに数キロ前進して力尽きた。

 こんな惨めな最後が矮小な俺にはお似合いなのかもしれないな。

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